鍼治療とうつ病改善の関係についての臨床的証拠:無作為化対照試験の系統的レビューとメタ解析

NEUROPSYCHOBIOLOGY, 82, 1-13, 2023 Clinical Evidence for Association of Acupuncture with Improved Major Depressive Disorder: A Systematic Review and Meta-Analysis of Randomized Control Trials. Xu, G., Xiao, Q., Huang, B., et al.

背景

世界中で,うつ病は致命的でない健康状態の低下に最も著しく寄与している。伝統的な中国の医療である鍼治療は,うつ病を緩和するために最も多く用いられている抗うつ薬の代替療法である。

いくつかの系統的レビューやメタ解析で,鍼治療がうつ病に効果的であることが示唆されたが,これらの研究の一部には質の問題があり,一貫した結果が得られていない。今回,うつ病に対する鍼治療の有効性と安全性を判断するため,質の高い無作為化対照試験(RCT)のみを対象としたメタ解析を行った。

方法

八つのデータベースから,2022年2月10日までに中国語と英語で出版されたうつ病に対する鍼治療のRCTを抽出し,メタ解析を実施した。うつ病の成人(18歳以上)に対して鍼治療が行われたRCTを組み入れた。Jadad評点が4以上の研究のみを組み入れることで,研究結果の信頼性と質の高さを担保した。ツボの数,保持時間,頻度,治療回数は制限しなかった。

主要評価項目はハミルトンうつ病評価尺度(HAMD)で評価した。副次評価項目にはZungの自己評価式抑うつ尺度(Self-Rating Depression Scale:SDS)の変化と副作用の発生率が含まれた。

変量効果メタ解析を用いて,平均差(MD)またはオッズ比(OR)の結果を統合した。更に,異質性の潜在的な原因を調査するためにメタ回帰分析,サブグループ解析,感度分析を行った。各評価項目のエビデンスの質はGrading of Recommendations Assessment, Development, and Evaluations(GRADE)システムによって評価した。

結果

4,037名のうつ病患者を含む43報の高品質なRCTが系統的レビューの対象となった。9報の鍼治療 vs 偽鍼治療(n=920),26報の鍼治療 vs 抗うつ薬(n=2,169),9報の鍼治療+抗うつ薬 vs 抗うつ薬(n=667)の研究が含まれた。

不十分な盲検化のために,本メタ解析のバイアスリスクが増加した。バイアスのリスクは,43報の研究のうち,24報は低く,8報は中等度と判断された。

2報は生データの欠如により量的統合ができなかったため,3,387名の患者を含む41報のRCTがメタ解析の対象となった。24報の研究を統合した結果,鍼治療は抗うつ薬よりもHAMDにおける効果が高い(MD:-2.71)という質の高いエビデンスが示された(図)。HAMDとSDSを統合した結果によって,偽鍼治療または抗うつ薬と比較した鍼治療または鍼治療+抗うつ薬の臨床的有用性が質の高いエビデンスで示された。更に,9報の研究により,鍼治療は抗うつ薬より有害事象が少ない(OR:0.27,95%信頼区間:0.12-0.61)という質の高いエビデンスが示された。

結論

質の高いエビデンスから,鍼治療または鍼治療+抗うつ薬によってHAMD評点が有意に低下することが示された。また,うつ病に対する鍼治療の最適な回数を特定し,抗うつ薬の使用を減らし臨床的ケアにそのようなエビデンスを統合するためには,更に厳密な試験が必要である。

図. 鍼治療 vs 抗うつ薬のHAMDのフォレストプロット

261号(No.3)2023年7月31日公開

(倉持 信)

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