薬物療法と精神療法によるうつ病患者の寛解に関する脳結合性の共通する変化と特異的な変化

AM J PSYCHIATRY, 180, 218-229, 2023 Shared and Unique Changes in Brain Connectivity Among Depressed Patients After Remission With Pharmacotherapy Versus Psychotherapy. Dunlop, B. W., Cha, J., Choi, K. S., et al.

背景

うつ病に対する第一選択の治療である薬物療法と認知行動療法(CBT)は脳に対して別の作用を介して改善をもたらすと考えられているが,この二つの治療法と脳における代謝及び血流との関連については少数例を対象としたわずかな研究しか行われていない。

近年の脳画像研究は特定の機能に関連した異なるネットワークを明らかにし,うつ病の病態生理にはデフォルトモードネットワーク(DMN),実行機能ネットワーク(ECN),顕著性ネットワーク(SN),感情ネットワーク(AN)の四つのネットワークが関係していることが一貫して報告されてきた。うつ病における治療前後の安静時機能的結合性(resting-state functional connectivity:rsFC)の変化を調べた過去の研究は,少数例で一つの治療あるいは一つのネットワークを調べたものが多く,過去に受けた治療の異質性も高かった。

本研究は,薬物療法もしくはCBTで寛解に至った初回治療のうつ病患者における四つのネットワークの変化について,治療に共通する変化と特異的な変化を調べた。

方法

The Predictors of Remission in Depression to Individual and Combined Treatments(PReDICT)研究はEmory大学及びGrady病院で2007~2013年に行われた,未治療のうつ病患者を対象とした無作為化対照試験である。治療法はデュロキセチン,エスシタロプラム,CBTの3種類,治療期間は12週間で,治療前後に安静時機能的核磁気共鳴画像(fMRI)撮像を行った。rsFCの解析には,後部帯状回,背外側前頭前皮質(DLPFC),前部島皮質,膝下部帯状回皮質(SCC)の四つのシードを用いた。解析では線形混合効果モデルを用いて,治療期間の効果,治療法の効果,交互作用の効果を調べた。

結果

131名が治療とMRIの評価を完遂した。平均年齢は39.8歳,女性は56.5%であった。このうち,薬物療法群91名中45名,CBT群40名中19名が寛解に至った。

治療法にかかわらず寛解に至った患者に共通する変化として,SCCと左運動野内側のrsFC低下が認められた。治療特異的な変化はECN,AN,SNで認められ,全体としてCBTではrsFCの上昇,薬物療法では低下,という変化の違いが認められた。特に,CBTで寛解に至った患者では,ECNと下頭頂小葉,SNと楔前部,SNと後部島皮質のrsFCが健常者よりも有意に上昇していた。

考察

本研究ではrsFCの方向性や因果関係を示したわけではないが,うつ病患者に認められる,思考を行動に移せない症状は辺縁系による感覚運動野への抑制の反映かもしれず,辺縁系と運動野のrsFCの低下はうつ病からの回復に重要かもしれない。

CBTで寛解に至った患者ではDLPFCと頭頂葉領域のrsFCの上昇が認められ,更にCBT群全体の解析では,症状の改善とECNのrsFC上昇に相関が認められた。これらの結果から,ECNのrsFC低下はCBTの治療ターゲットになるかもしれない。

過去の研究では,うつ病におけるDMN内,DMNとECN間のrsFC上昇が報告されていた。本研究では治療によるDMN内のrsFC低下は認められなかったが,DMN内のrsFC上昇は状態特性ではなく疾患特性なのかもしれない。

本研究の強みは,大規模サンプル及び全脳ボクセルワイズ解析を用いてうつ病に対する第一選択の治療の影響を調べたことである。限界は,対象を未治療に限定したため一般化可能性が低いこと,FCの安定性を評価していないことである。

結論

うつ病からの寛解に伴うrsFCの変化には,治療特異的な変化と,二つの治療に共通する変化が認められた。薬物療法では多くのネットワークにおけるrsFCの低下が認められた一方,CBTでは認知的制御と注意に関するネットワークのrsFC上昇が認められた。感情と運動のネットワーク間のrsFC低下は二つの治療に共通して認められた変化であった。

261号(No.3)2023年7月31日公開

(髙宮 彰紘)

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