治療抵抗性うつ病と患者転帰及び医療資源利用との関連についての全住民研究

JAMA PSYCHIATRY, 80, 167-175, 2023 Association of Treatment-Resistant Depression With Patient Outcomes and Health Care Resource Utilization in a Population-Wide Study. Lundberg, J., Cars, T., Lööv, S.-Å., et al.

背景

世界規模で見てもうつ病(MDD)による損失は大きく,抗うつ薬,精神療法,電気痙攣療法(ECT)などが治療に利用されている。しかし,数ヶ月以上にわたって複数の治療を行っても寛解に至らない患者が少なくない。

1970年代に治療抵抗性うつ病(TRD)についての議論がなされ,2種類以上の抗うつ薬で適切な治療を行っても寛解しないうつ病と定義された。また,STAR*D研究によりMDDエピソードの30%以上がTRDに該当すると推定されている。TRDが社会や個人に及ぼす総合的な影響や,TRDの予後予測の可能性については未知であるが,これまでのTRDの観察研究には,無作為なサンプリングが困難という問題があった。MDDの患者の大部分がプライマリーケアで治療を受けているにもかかわらず,TRDの観察研究を行う際に医療制度やプライマリーケアのデータにアクセスできないことが,その一因となっている。しかし,スウェーデンには国管轄の市民登録制度があり,住民は医療へのユニバーサルアクセスが可能となっている。この仕組みを用いれば,他の国々に存在するデータ収集における限界を克服できる可能性がある。

方法

本研究は,ストックホルムMDDコホートのデータを利用した全住民ベースの観察研究である。このデータには,2010~2018年のストックホルム地域における全MDD患者のデータが含まれている。2018年のストックホルム地域の人口は約240万人で,スウェーデン全人口の24%を占める。このうち,2012年1月1日~2017年12月31日に発生したMDDエピソードのうち,発生時の患者年齢が18歳以上であったエピソードを対象とした。全てのTRDエピソードと,それにマッチさせた非TRDエピソードの間で,群間比較を行った。

結果

上記期間に,145,577人,延べ158,169回のMDDエピソードが認められた。64.7%が女性で,年齢の中央値は42歳であった。このうち11.1%にあたる12,765人の12,793回のエピソードがTRDの定義を満たし(TRD群),これに非TRDエピソード62,817回(非TRD群)をマッチさせた。MDDエピソードの開始からTRDに至るまでの中央値は522日であった。エピソードの持続期間は,非TRD群よりもTRD群が長かった。

併存症については,TRD群で不安症が59.8%(非TRD群44.4%),ストレス障害が35.8%(同28.0%),睡眠障害27.5%(同19.4%),物質使用障害15.3%(同10.6%)に認められ,非TRD群に比べて多かった。意図的な自傷行為はTRD群で4.9%,非TRD群で1.8%に認められた。いずれの群も99.9%が抗うつ薬による治療を受けており,TRD群では補強療法を14.4%(非TRD群4.4%),精神療法を46.2%(同34.7%),ECTを3.4%(同0.3%)が受けていた。診断後の12ヶ月間の外来受診の回数はTRD群が9.8回であったのに対し非TRD群5.6回,入院日数は3.9日と1.3日,休職期間は132.3日と58.7日と,いずれもTRD群で多かった。全死因死亡はTRD群で10.7/1,000人‐年,非TRD群で8.7/1,000人‐年であり,TRDエピソードには全死因死亡の上昇と関連が認められた(ハザード比:1.23, 95%信頼区間:1.07-1.41)。

MDDの診断を受けた際のモンゴメリ・アスベルグうつ病評価記入票(Montgomery-Åsberg Depression Rating Scale)の自記式版の点数が,TRDの予測因子として重要であった(C index=0.69)。

結論

本研究では,精神科か精神科以外かにかかわらずユニバーサルアクセスが可能なスウェーデンのストックホルム地域において,MDD患者内のTRDの有病率に関する信頼性の高い推定を行うことができた。本研究の結果から,TRDは医療資源の利用,休職期間,自傷行為,死亡率の観点から,疾病負荷が高いことが示された。

261号(No.3)2023年7月31日公開

(真鍋 淳)

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