注意欠如・多動症の青少年における自殺リスク:全米入院患者サンプルデータの概要

J NERV MENT DIS, 211, 216-220, 2023 Suicide Risk Among Adolescents With ADHD: An Overview From the National Inpatient Sample Data Set. Trivedi, C., Nandakumar, A. L., Yousefzadehfard, Y., et al.

背景と目的

小児・青少年の自殺は増加傾向にあり,小児・青少年の発達における重大な懸念であると共に,個人の発達と存在を脅かすものである。注意欠如・多動症(ADHD)は重要な自殺の危険因子であり,ADHD患者の自殺リスクについての研究は数多くあるが,年齢・性別・人種を統制してADHD群と非ADHD群における自殺リスクを比較した研究は存在しない。

そのため,本研究は,ADHDのある患者とADHDのない患者との間で自殺リスクを比較することを主な目的とした。

方法

本研究では,全米入院患者サンプル(National Inpatient Sample:NIS)より,医療費・医療利用プロジェクト(Healthcare Cost and Utilization Project:HCUP)のデータの一部を用いた。2016年1月~2018年12月の退院記録のうち,12~17歳の患者のデータを採用した。退院記録上のICD-10修正版による主診断がADHDであるかどうかを基準として,ADHDの患者36,004名は試験群,ADHDでない患者270,857名は対照群に割り付けた。両群の基準時点の特性のバランスをとるために,試験群と対照群で1:1の傾向スコアマッチングを行った。

マッチングはキャリパーサイズを0.0001とした最近傍マッチングにより行った。また,転帰をADHDとして,共変量を年齢,性別,人種,郵便番号に対応した世帯年収の中央値,退院年とした。

主な結果は,両群間の自殺念慮(SI)/自殺企図(SA)とし,副次的な結果として,両群間の基準時点の特性を比較した。結果はNISデータセットの臨床分類ソフト(Clinical Classifications Software:CCS)において「SI/SA/意図的自傷」のICDコードに分類されるデータを用いた。

結果

基準時点の特性では,平均年齢(試験群14.5 vs 対照群14.9,p<0.001)及び女性の割合(試験群42% vs 対照群61%,p<0.001)に,2群間で有意な差があった。また,人種分布も両群で異なり,試験群では64.5%,対照群では51.1%が白人であった(p<0.001)。傾向スコアマッチング後は,平均年齢は14.5歳,女性42%,白人64.5%,世帯収入中央値の下位パーセンタイルに属する患者は29.4%であった。これらの基準時点特性は全て,群間で同様に分布していた。

SIのリスクは試験群において25.1%,対照群において10.3%であった(p<0.001)。SAについても同様に,試験群が8.0%,対照群は3.9%であり,ADHDの患者でリスクが非常に高い結果であった。共変量の補正を行うと,ADHDはSI/SAの強い予測因子であり,対照群と比較したオッズは2.18倍であった。また,うつ病,境界性パーソナリティ障害,物質使用障害もSI/SAと関連していた。

考察

本研究では,ADHDはSIのみに限らず,SAの独立したリスク因子であることが明らかになった。しかし,人口統計学的特性が同様の青少年における自殺行動は,独立してADHDと関連しているのか,あるいは他の併存疾患の一部と関連するものかについては,更に調査する必要がある。他の精神疾患の併存,ADHDの亜型,薬物療法,精神療法がADHDの自殺行動の発症に影響している可能性があり,更に検討する必要がある。ADHDの患者は,自殺関連特性のあることが考えられる。

261号(No.3)2023年7月31日公開

(冨山 蒼太)

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