出生時の在胎週数と青年期の認知的転帰:全住民ベースの同父同母の同胞コホート研究

BMJ, 380, e072779, 2023 Gestational Age at Birth and Cognitive Outcomes in Adolescence: Population Based Full Sibling Cohort Study. Husby, A., Wohlfahrt, J., Melbye, M.

背景

胎児の脳は妊娠後期にも発達する。早産や早期正期産がその後の脳機能に影響を与えると報告しているコホート研究があるが,先行研究は認知的転帰を一つだけしか用いていない,サンプルサイズが小さい,交絡因子の調整が十分になされていない,等の限界がある。

本研究では,在胎週数と長期的な認知予後の正確な関係を明らかにすべく,120万人のデンマークの子どもとその家族に関する全国規模の登録情報を用い,義務教育最終学年度に国語と数学の筆記試験を受けた792,724人の子どもを含む同胞コホートを作成した。

方法

デンマークでは国民全員に固有の識別番号が付与される登録制度が敷かれており,これにより児の在胎週数,出生時体重,奇形に関する情報,全ての学校の成績などの情報が蓄積されている。本研究では,1986~2003年の間にデンマークで出生し,16歳まで生存し,国外移住をしていない子どもに関するコホートを作成した。また,家族共有の因子を考慮し,少なくとも1人以上の同父同母の同胞を持つ子どもに限定した同胞コホートも作成した。

在胎週数は超早期早産(28週未満),早期早産(28週0日~31週6日),中等度早産(32週0日~33週6日),後期早産(34週0日~36週6日),そして37週から42週までの各週,42週以降として分類した。

統計解析には,多変量線形回帰モデルを用い,出生時の在胎週数ごとに認知的転帰のそれぞれのzスコアの調整平均差を推定した。また,性別,相対出生時体重,奇形の有無,出生時の親の年齢,親の教育レベル,兄姉の数を共変量とした。

結果

研究対象期間に生まれた1,161,406人のうち,1人以上の同父同母の同胞を持つ計792,724人が研究コホートに含まれた。44,322人(5.6%)が在胎37+0週以前生まれ,384,787人(48.5%)が女児,321,076人(40.5%)が25~29歳の母親から生まれた。出生時に1人の兄姉がいた子どもは336,071人(42.4%)であったが,兄姉が4人以上いた子どもは7,565人(1.0%)だけであった。

在胎40週で生まれた子どもと比較した国語の成績によるzスコアの差を推定したところ,在胎27週未満で生まれた子どもだけが,成績が有意に低かった(家族共有因子を考慮した場合のzスコア差-0.10[95%信頼区間(CI):-0.20--0.01]。数学については,在胎34週未満または41週以上で生まれた子どもだけが,40週で生まれた子どもと比較して,zスコアが有意に低かった。

家族共有因子を考慮せず,全ての共変量で調整した場合,在胎40週未満で生まれた子どもの成績は,国語と数学共に在胎40週と比較して有意に低かった(図上段)。一部の子どもは義務教育終了時に最終試験を受けておらず,この現象は在胎週数が短いほど高い頻度で生じていた。最終試験への不参加の原因の一つとして認知障害が関係していると考えられるため,最終試験の情報がない子どもに対してzスコアで1パーセンタイルに当たる低い点数を得たと仮定した解析を行った。その結果,在胎34週未満で生まれた子どものzスコアは,国語と数学の両方で有意に低かった(図中段)。また,在胎週数と認知的転帰の間の潜在的な媒介因子となり得る,未熟児に関連する後遺症(たとえば新生児出血,網膜症)の割合と幼少期の入院回数について補正した解析を行ったところ,国語と数学の成績の低下は若干の減衰を示したが,早産児及び超早産児における数学の成績の有意な低下は維持された(図下段)。

考察

本研究の長所は,ほぼ全国民を網羅する集団から得られた大規模な研究であり,サンプルサイズ,両親と同胞との紐づけ,出生時の在胎週数,共変量,転帰に関する全ての情報が前方視的に登録されていることである。一方で,本研究の限界としては,教育達成度や生涯所得などのより現実的な転帰の指標は用いられていないことが挙げられる。

結論

在胎週数34週以上で生まれた子どもは,40週で生まれた子どもと同等の認知的転帰を示したが,34週未満の子どもでは,それらは低かった。認知能力が低いこと自体が,生涯の生活の質(QOL)の低下や早期の死亡に繋がることを考えると,本研究の知見から,これらの有害な結果をどのように防ぐことができるかについての更なる研究が必要であることが強調される。

図. 同父同母の同胞コホート(1986〜2003年にデンマークで出生)において,国語と数学の標準化された成装(zスコア)を,出生時の在 胎週数ごとに,40週で出生した子どもと比較した差

261号(No.3)2023年7月31日公開

(内田 貴仁)

このウィンドウを閉じる際には、ブラウザの「閉じる」ボタンを押してください。