父親の年齢と子における13の精神障害:台湾の700万人の子どもの全住民ベースのコホート研究

MOL PSYCHIATRY, 27, 5244-5254, 2022 Paternal Age and 13 Psychiatric Disorders in the Offspring: A Population-Based Cohort Study of 7 Million Children in Taiwan. Wang, S.-H., Wu, C.-S., Hsu, L.-Y., et al.

はじめに

父親が高年齢であることは子における自閉症・統合失調症・双極性障害などの精神障害と関連があるが,因果関係の性質はとらえどころがないままである。今回,台湾の単一支払者制度の公的保険(National Health Insurance)プログラムで網羅されている保険関係(98%を超える精度)によって推定された親子関係を利用して,父親の年齢が子に与える広範囲な精神医学的リスクの大きさを包括的に評価することを目的とした。また,同胞比較分析と多世代分析を用いて,父親の年齢に独立した役割があるかどうかを調査した。両親の年齢差の潜在的影響も調査した。

方法

台湾の住民の99%を網羅する国民健康保険研究データベース(NHIRD)で,1980~2018年に生まれた7,264,788名を1997年から2018年まで追跡する全国コホート研究を行った。同胞を持つ5,572,232名が同胞比較分析に選出され,父方祖父母の情報を持つ1,368,942名,母方祖父母の情報を持つ1,044,420名のそれぞれが多世代分析に選出された。

1997~2018年の入院/外来患者の請求データを用いて,12の主な精神障害[統合失調症,自閉症,双極性障害,注意欠如・多動症(ADHD),大うつ病,摂食障害,物質使用障害,精神遅滞,チック障害,強迫症,不安症,身体表現性障害]を特定し,死亡診断書から自殺を特定した。

ロジスティック回帰分析を用いて,子の父親/母親/祖父母の年齢と,子の精神医学的リスクとの関連を推定した。

結果

全コホートと同胞比較コホートは同様の結果を示した。父親の年齢は子の双極性障害,大うつ病,摂食障害,物質使用障害,不安症とU字型の関係を示した。非常に若い母親の年齢(20歳未満)は子の双極性障害,大うつ病,物質使用障害,精神遅滞,不安症,自殺の高いリスクと関連し,中でも物質使用障害(OR=1.53),精神遅滞(OR=1.78),自殺(OR=1.62)のリスクは際立って高かった。高い父親の年齢(25歳以上)は子の統合失調症(OR=1.37),自閉症(OR=1.29),精神遅滞(OR=1.56),自殺(OR=1.26)と強い比例関係を示し,子の双極性障害,ADHD,大うつ病,摂食障害,物質使用障害,強迫症,不安症とも控えめな比例関係を示した。高い母親の年齢(25歳より高い)は子の自閉症,強迫症と比例関係を示した。

高い祖父の年齢は孫の統合失調症,自閉症,ADHD,精神遅滞と比例関係を示した。祖母の年齢は,20歳未満であったことが孫の精神遅滞のリスクを上昇させたことを除いて,孫の精神医学的リスクとはならなかった。

両親の年齢差は子の大うつ病,物質使用障害,精神遅滞,不安症,自殺とU字型の関係を示し,強迫症と逆U字型の関係を示した。父親より母親の年齢が高いことは子の自閉症及びADHDの高いリスクであった。母親より父親の年齢が高いことは子の統合失調症の高いリスク,チック障害の低いリスクであった。

結論

この包括的な評価は,子の精神医学的リスクに対して父親の年齢が独立した役割を持っているという確固たるエビデンスを提供するもので,これによって,親になる年齢が高齢化することが疾病負担の増加に及ぼす影響が明らかになった。

261号(No.3)2023年7月31日公開

(倉持 信)

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