自殺行為に先行する悪い夢(Bad Dream)と悪夢(Nightmare)

J CLIN PSYCHIATRY, 84, 22m14448, 2023 Bad Dreams and Nightmares Preceding Suicidal Behaviors. Geoffroy, P. A., Borand, R., Akkaoui, M. A., et al.

背景

睡眠と概日リズムのマーカーは,自殺予測の向上の一助となることから,ますます関心を集めている。最近の追跡調査では,睡眠の変化は,精神病理とは無関係に自殺企図を予測することが示された。また,悪夢は精神障害に多く見られる症状であり,社会人口統計学的特性や精神障害とは無関係に,自殺や自殺企図と関連している。そこで著者らは,自殺の危機(自殺思考と自殺企図)における,自殺念慮または自殺企図のある集団の特徴をよりよく理解し,彼らの過去の夢の内容を評価するために,本研究を実施した。

方法

2021年1月~5月に自殺念慮または自殺企図でフランス・パリのビシャ(Bichat)病院に入院した18歳以上の全ての患者を対象とした。社会人口統計学的特徴,生活習慣,物質使用,精神科歴,睡眠障害歴,家族の精神科歴と睡眠障害歴を収集した。DSM-5基準によるうつ病の症状も評価し,エピソードの期間と自殺企図の有無も確認した。自殺企図や自殺思考がある場合は,自殺思考の発症日を収集した。夢の内容については,悪い夢(Bad Dream:悪い感情や出来事を伴う夢で,この夢のせいで覚醒するかしないかは問わない),悪夢(Nightmare:夢の中の悪い感情や出来事のせいで覚醒してしまう夢),自殺のシナリオを区別し,夢の変容の亜型ごとに,その発症について,また夢のテーマについて患者に聞き取り調査を行った。

コロンビア自殺重症度評価尺度(Columbia-Suicide Severity Rating Scale:CSSRS)を用いて自殺念慮を評価した。不眠症状は,不眠症重症度指数(Insomnia Severity Index:ISI)で評価した。クロノタイプについては,Horne and Ostbergアンケートを全例に実施した。不安・抑うつ尺度(Hospital Anxiety and Depression Scale:HAD)により不安・抑うつ症状を評価した。

結果

自殺行動(思考または企図)を伴う患者40名のうち,32名(80%)に夢の変容があり,そのうち27名(67.5%)が悪い夢を,21名(52.5%)が悪夢を,9名(22.5%)が夢の中で自殺のシナリオを見た。

夢の変容があった群は夢の変容がなかった群に比べ,不眠症の家族歴が多かった(p=0.046)。その他の臨床的特徴については,群間差は認められなかった。

97.5%が抑うつ症状を有し,82.5%(33/40)が中等度~重度であった。ISIで評価したところ,60.0%が不眠症に罹患していた。

夢の変容の時系列については,患者の80%は,自殺の危機の前に少なくとも1回の夢の変容を経験していた。悪い夢は患者の67.5%が経験し,自殺の危機の平均111日前に始まっていた。自殺の危機を迎えた患者のうち,80%に少なくとも1種類の夢の変容があり,40%に悪い夢と悪夢,17.5%に3種類全ての夢の変容があった。また,自殺企図者だけを見ても,夢の変容の進行は同じで,悪い夢は69.0%が危機の平均121.4日前から,悪夢は48.3%が危機の平均90.6日前から始まっていた。24.1%が夢の中で自殺のシナリオを経験しており,34.9日前から始まっていた。自殺企図者では,79.3%に少なくとも1種類の夢の変容があり,37.9%が悪い夢と悪夢,20.7%が3種類の夢の変容を全て経験していた。

結論

自殺で亡くなる4人のうち3人は,自殺前の1年間にプライマリーケア医を受診しており,その約半数は1ヶ月以内に受診している。従って,睡眠の変化,とりわけ夢の変容とその進行を容易に評価することができ,プライマリーケアにおいて自殺行動の前駆症状の特定を改善するのに役立つと思われる。そのため,最近の悪い夢や悪夢の経験,その内容の簡単な調査など,新たな睡眠障害の出現に対処する非常に短い質問が,プライマリーケアでの自殺リスクのスクリーニングに含まれるようになるかもしれない。

261号(No.3)2023年7月31日公開

(大谷 愛)

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