精神疾患を持つ140万人の男性における内科病棟入院後の自殺企図と自傷行為のリスクについて

J PSYCHIATR RES, 157, 50-56, 2023 Risk of Suicide Attempts and Self-Harm After 1.4 Million General Medical Hospitalizations of Men With Mental Illness. Thiruvalluru, R. K., Edgcomb, J. B., Brooks, J. O. 3rd, et al.

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背景

男性の自殺率は,世界的には女性の2倍以上であり,米国では女性の3.5~4.5倍である。このように自殺,自殺企図,非致死的な意図的自傷行為,また,これらの前兆についても男女で相違が知られているため,性特異的な危険因子に関する知見が得られれば,自傷行為のメカニズムが明らかになり,自殺予防の精度が更に高まる可能性がある。

入院後の自傷行為における性差は顕著であり,内科病棟入院後90日以内における自殺率は,男性では女性の約4倍となっている。しかし,内科疾患後の自傷行為の性特異的な危険因子はよくわかっていない。

入院後の自傷行為は,精神障害と身体的状態との間の不定形な相互作用であるため,予測や予防は困難である。そのため,直近の内科疾患がある人々における自傷行為の前兆とその基礎にある主要な精神疾患について明らかにする取り組みは少ない。

男性,重篤な精神疾患,内科病棟入院という複合危険因子が確立しているにもかかわらず,内科疾患と精神疾患を併存する男性における自傷行為の前兆はまだよくわかっていない。米国の二つの都市部の医療記録を用いた後方視的コホート研究は,重篤な精神疾患を持つ女性が,内科病棟入院後に女性特有の自傷行為の予測因子を呈することを明らかにした。しかし,この研究は女性のみに焦点を当てており,男性の自傷行為の前兆を評価していない。

この知見のギャップに対処するため,本研究では,公的データソースを活用し,主要な気分障害及び精神病性障害を有する成人男性に新たに焦点を当て,医療機関退院後1年間の自殺企図及び自傷行為の前兆を検討する。本研究の主な目的は,重篤な精神疾患を併存する成人男性における内科病棟入院後の自傷行為を予測するモデルを開発し,検証することである。

方法

本研究は住民ベースの縦断コホート研究であり,Patient-Centered Outcomes Research Institute(PCORI)-funded INSIGHT Clinical Research Network(INSIGHT-CRN)コホートから得られたデータセットをもとに機械学習ベースの分類モデルを開発し,アウト・オブ・フォールドモデル予測を用いてそのモデル性能を評価した。その後,モデルを別のデータセット(LA-xDRリポジトリ)に適用し,研究実施機関間のリスクグループを検証した。

主要転帰は,退院後1年以内の自殺企図または意図的な自傷行為による再入院とした。

結果

分類モデルは,曲線下面積(AUC)0.73,精度0.82,感度82.6%,特異度83.1%で自殺企図・自傷行為による再入院の71%を予測した。自殺企図または自傷行為による再入院のリスクを示した最終的な剪定木モデルを図に示す。

最もリスクが高かったのは,内科疾患を二つ以上併存し,指標となる入院前に自殺企図または自傷行為の既往がある人であった(オッズ比3.10)。2番目にリスクが高かったのは,一つ以下の内科疾患を併存し,年齢が62歳未満の人であった(オッズ比1.11)。リスクが低かったのは,内科疾患を二つ以上併存し,自殺企図または自傷行為の既往がなく,過去1年間に全ての原因による入院が1回以上あった人であった(オッズ比0.79)。これらについては検証セットにおいても同様の結果を確認することができた。

結論

精神疾患を持つ成人男性の内科病棟入院患者140万人以上を対象とした本研究では,退院後の自傷行為のリスクは,併存疾患が二つ以上あり,自傷行為の既往がある人で最も高くなっていた。また,62歳未満の男性で,併存疾患が一つ以下である場合もリスクが高かった。

図. 重度の精神疾患を持つ男性における内科病棟入院後の自殺企図及び自傷のリスクを層別化した分類ツリー

261号(No.3)2023年7月31日公開

(和田 真孝)

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