イングランドにおける青少年への抗精神病薬処方の傾向:2000~2019年のプライマリーケアデータを用いたコホート研究

LANCET PSYCHIATRY, 10, 119-128, 2023 Trends in Antipsychotic Prescribing to Children and Adolescents in England: Cohort Study Using 2000–19 Primary Care Data. Radojčić, M. R., Pierce, M., Hope, H., et al.

背景

抗精神病薬の多くは,特に長期使用における安全性特性が不完全であるために青少年への使用が許可されていないが,青少年に対する処方は世界的に増加している。本研究では,専門医療への門番であり薬物処方において重要な役割を担っているプライマリーケアのデータベースを用いて,イングランドにおける抗精神病薬の処方に関する最新の傾向を説明し,考えられる適応を明らかにした。

方法

本コホート研究は,イングランドの登録診療所から日常的に収集される電子カルテデータから成る,最大にして最も正確なプライマリー・ヘルスケアデータベースであるClinical Practice Research Datalink(CPRD)Aurumデータベースを使用した。2000年1月1日~2019年12月31日に本データベースに登録されたイングランドの3~18歳の全ての青少年を対象としたが,性別が不確定と記録された小児は除外した。参加者の追跡は,2019年12月31日,18歳になった年の6月30日,死亡,登録診療所から転院した時点,診療所がデータベースから去った時点のうち,最も早い時点まで実施した。

全体的な処方傾向については,年間の処方率及び初回抗精神病薬処方率として報告し,また,抗精神病薬の種類や,処方に関連する適応症の頻度を報告した。CPRDの処方箋は適応症とリンクしていないため,臨床コードを用いて参加者の最初の抗精神病薬処方に関連する最も可能性の高い適応症を確認するためのアルゴリズムを開発した。

結果

7,216,791名の青少年が対象となった。3,736,061名(51.8%)が男子で,追跡開始時の平均年齢は7.3歳(標準偏差=4.9)であった。追跡調査期間の中央値は4.1年(IQR 1.5~8.5)であった。19,496名(0.3%)が追跡調査期間中に243,529回の抗精神病薬処方を受け,その内訳は非定型抗精神病薬225,710回(92.7%),定型抗精神病薬17,819回(7.3%)であった。

定型薬は貧困地域の子ども達により多く処方される傾向にあった。ほぼ全ての年で,抗精神病薬を処方された男子は女子の2倍であったが,処方率の上昇の割合は男女で同様であった。

抗精神病薬の年間処方率は,2000年の0.057%[95%信頼区間(CI):0.052-0.063]から2019年には0.105%(95%CI:0.100-0.111)へと倍増した。2000~2019年の間に,全抗精神病薬の処方率は年平均3.3%(95%CI:2.2-4.9),初回処方率は年平均2.2%(95%CI:1.7-2.7)上昇した。

初めて確認された抗精神病薬処方の適応症は,自閉スペクトラム症[2,477(12.7%)],非感情性精神病[1,669(8.6%)],不安症[1,466(7.5%)],注意欠如・多動症(ADHD)[1,391(7.1%)],うつ病[1,256(6.4%)],行為障害[1,181(6.1%)]の順に多かった。

考察

20年以上にわたる抗精神病薬処方の増加は,長期処方の蓄積と新規処方の増加によるものであり,若者のメンタルヘルスを管理する傾向が強まっていることが示唆される。これらの知見は,抗精神病薬の使用傾向を継続的にモニタリングする必要性と,長期的な抗精神病薬の安全性に関するより良い情報の必要性を強調するものである。

青少年における抗精神病薬使用に焦点を当てたガイダンス(National Institute for Health and Care Excellence)の最後の発行が2013年で,更新されたのが2016年であることが懸念され,新たなレビューや推奨の作成が緊急に求められる。また,推奨と実臨床のギャップを埋めるべく,臨床医が推奨を遵守しているかどうかを監査することも提唱したい。更に,経済面,また本研究では検討しなかったが,民族的な不平等への考慮・調査も必要であろう。

261号(No.3)2023年7月31日公開

(下村 雄太郎)

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