北欧と米国での抗精神病薬の子宮内曝露と先天奇形のリスクとの関係

JAMA PSYCHIATRY, 80, 156-166, 2023 Association of In Utero Antipsychotic Medication Exposure With Risk of Congenital Malformations in Nordic Countries and the US. Huybrechts, K. F., Straub, L., Karlsson, P., et al.

背景

統合失調症と双極性障害の生殖年齢の女性患者,更には他の治療では治療困難であるうつ病や不安症の生殖年齢の女性患者にとって,抗精神病薬の使用は薬物療法の中心的存在であり,妊娠中に投薬を中止すると再発のリスクが生じる。

以前から,抗精神病薬の催奇形性については多数の研究によって報告されている。しかし,ほとんどの研究は小規模であったり,研究方法や評価方法や交絡因子の扱い方の違いがあったりするため,得られたデータは一貫した結果に至っていない。

これらの問題を克服するために,北欧5ヶ国と米国の合計6ヶ国で大規模研究を行い,単一の研究デザインと分析方法を用いて,個々の抗精神病薬と個々の先天奇形の198の組み合わせについて調べた。

方法

国際妊娠安全性試験コンソーシアム(International Pregnancy Safety Study Consortium)によって,上記6ヶ国の質の高い健康ケア・データベースとレジストリを使用して,6,455,324名の非曝露群,21,751名の非定型抗精神病薬曝露群,6,371名の定型抗精神病薬曝露群に対するコホート研究を行った。

先天奇形に関しては,全ての先天奇形に加えて,心血管奇形,口蓋裂,神経管閉鎖障害,股関節形成不全,肢欠損,直腸閉鎖/狭窄,胃壁破裂,水頭症,他の脳異常,食道障害といった以前から抗精神病薬との関係が疑われていた10の先天奇形を対象とした。

交絡因子の可能性のある説明変数には,人口統計学的因子,精神疾患下位分類,産婦人科系疾患,喫煙やアルコール及び薬物使用障害といった生活習慣での問題,抗精神病薬以外の薬剤,通院歴を用いた。

統計手法には,可能性のある交絡因子を制御するために傾向スコア法を用い,ロジスティック回帰モデルを使用して各薬剤と各先天奇形のリスクを求めた。主たる結果を確証するために感度解析も用いた。

結果

全ての先天奇形が起こる統合絶対リスクは,非曝露群で2.7%[95%信頼区間(CI):2.7-2.8],非曝露群内で精神疾患を持つ場合は3.7%(95%CI:3.6-3.7),非定型抗精神病薬曝露群で4.3%(95%CI:4.1-4.6),定型抗精神病薬曝露群で3.1%(95%CI:2.7-3.5)であった。

子宮内でのクエチアピンの曝露と胎児の心血管奇形といった比較的頻度の高い組み合わせのように,十分な情報量のある組み合わせ(100名以上の曝露群と非曝露群の子どもで1,000名中0.5名以上の割合を持つ先天奇形の組み合わせ)では,補正済み相対リスク(aRR)は0.7(95%CI:0.2-2.1)~1.2(95%CI:0.9-1.6)と,抗精神病薬の催奇形性はないという結果となった。唯一の例外はオランザピンの曝露と口蓋裂の関係であり,aRRは2.1(95%CI:1.1-4.3)であった。しかし,この組み合わせに関しても,感度解析にてオランザピン単剤療法に限るとaRRは1.1(95%CI:0.4-2.8)と,催奇形性はないという結果になった。十分な情報量のない組み合わせからは,非定型抗精神病薬曝露群での胃壁破裂が1.5(95%CI:0.8-2.6)と他の脳異常が1.9(95%CI:1.1-3.0),更にはchlorprothixene*の曝露と心血管奇形の組み合わせでは1.6(95%CI:1.0-2.7)とaRRが高かったが,CI自体が広いため,確固たる結論は得られなかった。

考察

本研究は,抗精神病薬に催奇形性があるという可能性を示唆しなかった。そもそも先天疾患の罹患率が少ない中で,個々の抗精神病薬と個々の先天奇形の疾患の組み合わせについての確固たる結論を得るためには,更に大規模な研究からのエビデンスの蓄積が必要である。

*日本国内では未発売

261号(No.3)2023年7月31日公開

(船山 道隆)

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