【from Japan】
産後2年までの乳児の授乳パターンと母親の心身の健康との関連性:子どもの健康と環境に関する全国調査

Journal of Affective Disorders, 327, 262-269, 2023 Association of Infants' Feeding Pattern up to 2 Years Postpartum With Mothers' Mental and Physical Health: the Japan Environment and Children's Study. Kasumi Tsunoda, Kenta Matsumura, Hitomi Inano, Takehiro Hatakeyama, Akiko Tsuchida, Hidekuni Inadera, the Japan Environment and Children’s Study (JECS) Group.

松村 健太 先生

富山大学学術研究部医学系公衆衛生学講座

松村 健太先生 写真

稲寺 秀邦 先生

富山大学学術研究部医学系公衆衛生学講座

稲寺 秀邦先生 写真

背景

産後の母親の心身の健康に影響を及ぼす潜在的要因の中で,子育てと切っても切り離せないのが児への栄養方法である。これまでの研究から,長期間の完全母乳育児が母親の心身の健康に有益であることが明らかとなっている。また,子どもを見つめたり話しかけたりしながら授乳していた場合,精神的健康が良好になるとの知見がある。しかし,まだ心身に脆弱性が残りつつ,すでに断乳していることも多い産後2〜3年時点の母親の心身の健康に関する報告は少なく,エビデンスの蓄積は十分でない。そこで本研究では,授乳パターン(6ヶ月までの完全母乳育児の実施,授乳時の子どもとの関わり,2歳までの母乳育児の継続の有無)と産後2年半時点における母親の心身の健康との関連を調べた。

方法

「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査*)」に参加している85,735人の母親を対象とした。授乳パターンは,産後1ヶ月,6ヶ月,2年時に実施した質問票の回答から判断した。産後2年半時点における母親の心身の健康は,健康関連生活の質(QOL)尺度(Short-Form Health Survey-8:SF-8)から算出される,精神的健康度[Mental Component Summary(MCS):評点が高いほど健康度が良好]及び身体的健康度[Physical Component Summary(PCS):評点が高いほど健康度が良好]を用いて評価した。

授乳パターンと心身健康状態の関連は,「6ヶ月までの完全母乳育児の実施の有無」×「授乳時の子どもとの関わりの有無」×「2歳までの母乳育児の継続の有無」を要因とする一般化加法混合モデル(基準はそれぞれ「なし」)を用いて解析した。交絡因子として,年齢,妊娠前の体格指数(BMI)及び社会経済的因子等の計24変数を事前に選択し,解析時に強制投入した。また,欠損値は,多重補完法を用いて補完した。

*エコチル調査:胎児期から小児期にかけての化学物質曝露が子どもの健康に与える影響を明らかにするために,平成22(2010)年度から全国で約10万組の親子を対象として環境省が開始した,大規模かつ長期にわたる出生コホート調査。

結果

産後2年半時点におけるMCS評点は,6ヶ月までの完全母乳育児の実施[β=0.28,95%信頼区間(CI):0.10-0.47]及び授乳時に子どもと関わりがあること(β=0.41,95%CI:0.29-0.54)と関連していた。一方,2歳までの母乳育児の継続とMCSには関連が認められなかった(β=0.10,95%CI:-0.20-0.40)。PCSについては,いずれの授乳パターンとも関連しなかった。更に,授乳パターンの交互作用のいずれも,MCS及びPCSと関連しなかった(図)。

結論

6ヶ月まで完全母乳育児を実施した母親と,子どもを見たり話しかけたりする等の関わりを持ちながら授乳した母親では,産後2年半における精神状態が良かった。一方で2歳までの母乳育児の継続による効果は確認されなかった。

本研究の主な限界は,授乳パターン及びMCSとPCSは自己回答に基づいているため,記憶の間違いによる誤差が生じた可能性があること,多数の交絡因子で調整したものの,因果関係を結論づけるまでには至っていないこと,である。

以上のような限界はあるものの,今回の結果は,母乳育児を勧めるだけでなく,授乳中の子どもとの関わり方について適切な情報を提供し支援することで,産後の母親の精神的健康を改善できる可能性があることを示唆している。

図.6ヶ月まで完全母乳育児を実施していたかどうか、授乳時における子どもとの関わりの有無、2歳まで母乳育児を継続したかどうかによる,補正後MCS及びPCS評点

261号(No.3)2023年7月31日公開

(松村 健太,稲寺 秀邦)

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