【テーマ：COVID-19①】
パンデミック中に幸福を維持する上での有益なパーソナリティの役割：縦断的な人口研究

J AFFECT DISORD, 331, 229-237, 2023 The Beneficial Role of Personality in Preserving Well-Being During the Pandemic: A Longitudinal Population Study. Iles-Caven, Y., Gregory, S., Northstone, K., et al.

新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより，メンタルヘルスの問題の発生率が上昇した。不安・抑うつの増加，幸福度の低下が全ての年齢層にわたって報告され，特に若年成人と女性で目立っている。

Julian Rotterは，社会学習理論における一般化された期待として「統制の所在（Locus of Control：LOC）」の概念を導入した。LOCは，行動とその結果に関する個人の一般化された期待を指す。内部にLOCを有する者は自身の行動が自身に起こることに影響を与えると信じている。対照的に，外部にLOCを有する者は，自身に何が起こるかは自身の制御の範囲を越えていると認識する傾向がある。先行研究で，外部性の増大は不安，抑うつ，種々の否定的な性格特性の増加に関連することが示唆されている。

本研究では，パンデミックによって誘発されるストレスを緩和する際の，パーソナリティ特性であるLOCの果たし得る役割を調査した。

親と子どものAvon縦断研究（Avon Longitudinal Study of Parents & Children：ALSPAC）はパンデミック前とパンデミック中の両方におけるメンタルヘルスの情報を有する縦断研究の一つで，親と子のメンタルヘルスについて繰り返し評価を行っている。ALSPACでは，7,021名の成人［平均年齢（標準偏差）：女性57.6歳（4.48），配偶者60.5歳（5.36）］がLOCの一般化された尺度（adult Nowicki-Strickland Internal-External locus of control scale：ANSIEの簡易版）を含む2020年の質問票に回答した。2020年3月～2021年1月には，メンタルヘルスの測定も含む，パンデミックに焦点を当てた質問票による調査が実施された。

幸福度はWarwick-Edinburghメンタル・ウェルビーイング尺度（WEMWBS），不安は全般不安症尺度（Generalised Anxiety Disorder：GAD-7），抑うつは気分感情質問票短縮版（Short Mood & Feelings Questionnaire：SMFQ）でそれぞれ評価した。回答者の60％以上が，対象となった三つの時点でアンケートに回答した。

内部にLOCを有する女性は外部に有する女性と比較して，肯定的な幸福度の割合が高く，不安・抑うつの割合が低いことが示された。たとえば，社会経済/人口統計学的因子の補正後，幸福度評点の平均差は＋2.01［95％信頼区間（CI）：＋1.02-＋2.10，p＝0.0001］であった（表）。外部にLOCを有する女性は内部に有する女性と比べて不安［オッズ比（OR）は，補正前は1.56（95％CI：1.32-1.85，p＜0.0005）であったが，ロジスティック回帰分析による補正後は1.32（95％CI：1.03-1.70，p＝0.025）と，リスクがゼロに近づいた］，抑うつ［補正後OR 3.41（95％CI：1.77-6.57，p＜0.0005）］を有する可能性が高かった。

この30年にわたる縦断的コホートでは，全ての縦断的研究と同様に参加者の経時的な脱落が問題となっている。現在も参加している人々は，社会経済的に恵まれないことが少なく，高い教育を有し，女性であり，内部に LOC を持っている可能性が高くなるという選択バイアスが生じる。また，参加者の民族的多様性が欠如していることも本研究の限界である。

内部にLOCを持つことにより，中年期の不安や抑うつの頻度に対するパンデミック誘発性のストレスの影響が緩和された。内在性と対処戦略を高めることを目的としたプログラムは，特に女性や最前線の医療従事者にとって，ストレスの多い状況におけるメンタルヘルス全般に長期的な利益をもたらす可能性がある。

262号（No.4）2023年9月27日公開

（倉持 信）

• 当該号の一覧に戻る

このウィンドウを閉じる際には、ブラウザの「閉じる」ボタンを押してください。