統合失調症患者におけるカフェイン摂取の臨床的及び薬理学的相関―FACE-SZコホートからのデータ

J PSYCHIATR RES, 161, 206-212, 2023 Clinical and Pharmacological Correlates of Caffeine Consumption in Subjects With Schizophrenia -Data from the FACE-SZ Cohort. Szoke, A., Richard, J.-R., Fond, G., et al.

背景

カフェインは世界中で最も多く消費されている精神作用物質である。過去の研究によると,精神病性障害患者はカフェインの摂取量が多いことが示されており,カフェインの過剰摂取に関連する精神病性症状の発現についての事例報告も存在する。また,ドパミンやグルタミン酸の神経伝達の調節におけるアデノシン受容体の役割から,「アデノシン説」によれば,カフェインはアデノシン受容体との相互作用を通じて統合失調症のリスクや臨床的症状に影響を与える可能性がある。

本研究では,統合失調症スペクトラム障害の外来患者を対象に,カフェイン摂取と臨床的指標,薬物治療,睡眠パターンとの関連を探究した。

方法

本研究では,FACE-SZネットワークから統合失調症スペクトラム障害の患者を選別した。カフェイン摂取量のデータを有する813名の成人患者(19歳以上)を対象とした。カフェイン(コーヒーと紅茶)の摂取量の評価には簡単な質問票を使用した。また,年齢,性別,教育水準などの人口統計学的変数や,症状評価スケール[陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)],一般的な臨床評価[臨床全般印象度(Clinical Global Impression:CGI),全体的機能評定尺度(Global Assessment of Functioning:GAF)],睡眠の質[ピッツバーグ睡眠質問票(Pittsburg Sleep Quality Index:PSQI)]などの臨床的指標も収集した。更に,薬物治療や喫煙状況などの変数も考慮した。極端な値(1日15杯以上のコーヒーに相当するカフェイン摂取を報告)を持つ9名を除外し,残る804名を解析に含めた。

結果

人口統計学的変数を補正した多変量解析では,カフェイン摂取量とPANSSの陰性症状との間には微弱ながらも有意な負の相関が認められた(相関係数-0.10,p<0.01)。また,カフェイン摂取量は,薬物の鎮静性の指標(相関係数0.13,p<0.01)と正の関連が認められた。ただし,カフェイン摂取量と他の症状や臨床指標との間には有意な関連は見られなかった。

考察

本研究の結果から,カフェイン摂取と統合失調症スペクトラム障害の陰性症状との間に負の関連があることが示唆された。これは,陰性症状の治療においては非常に限られた選択肢しかないため,重要な発見と言える。今後は,より多くの研究が必要であり,カフェイン摂取と陰性症状の関連やその治療上の意義について更に理解を深める必要がある。

また,本研究の限界としては,観察研究のため因果関係を推論することができない点や,他の重要な変数の補正が制限されている点,カフェイン摂取量の評価が自己報告に基づいていること,が挙げられる。更に,本研究は特定の地域の患者を対象にしたものであり,他の地域や人口全体とは異なる特性を持つ可能性がある。

結論

本研究は統合失調症スペクトラム障害の患者におけるカフェイン摂取と臨床的指標の関連についての知見を提供するものである。カフェイン摂取量と陰性症状との間に負の関連が示唆されており,この集団における症状管理や治療成果への臨床的な意義を検討するために,更なる研究が必要である。

262号(No.4)2023年9月27日公開

(上野 文彦)

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