統合失調症患者は他の人と同じように社会活動を楽しむことができるのか? 消費的社会的快楽に関するメタ解析

SCHIZOPHR BULL, 49, 809-822, 2023 Do People With Schizophrenia Enjoy Social Activities as Much as Everyone Else? A Meta-analysis of Consummatory Social Pleasure. Abel, D. B., Rand, K. L., Salyers, M. P., et al.

背景

統合失調症患者の社会的機能障害は,社会的関係への興味や快楽の減少に起因すると考えられてきた。しかし,統合失調症患者は社会との繋がり自体は求めており,人間関係の形成と維持に寄与するより複雑な障害を経験していると考えられる。

統合失調症患者では「感情のパラドックス」が認められるとされている。これは,統合失調症患者は,予期される快楽や回顧的な快楽を報告する際には障害を示すが,瞬間的・消費的な快楽にはほとんど問題がないという説である。しかし,これらの知見が社会的な状況においてどのように反映されるかは不明である。

そこで本研究は,統合失調症患者と健常対照者の消費的な社会的快楽の差を明らかにし,研究デザインや参加者の臨床特性などの因子による媒介の有無を検証することを目的とした。

方法

PsycINFO,Web of Science,Pubmed,EMBASEデータベースを用いて,2021年11月27日に文献検索を実施した。検索語は,①統合失調症,②社会化,③快楽,④経験サンプリング法(ESM:生活史の中でのイベントの瞬間あるいは直後にデータを収集する評価),⑤実験室でのシミュレーションによる社会活動(ロールプレイ,バーチャルリアリティ,ソーシャルゲームなど)に関するキーワードを組み合わせた。

ESMや実験室での社会的シミュレーションを用いて消費的な社会的快楽を測定する研究を対象としてメタ解析を実施した。

結果

26の研究がメタ解析に組み入れられた。被験者数は1,882名(精神病性障害群929名,対照群953名)で,男性が多く(63%),平均年齢は36.8歳(標準偏差8.3,範囲19.5~53.3)であった。14の研究ではESMを用いて実世界の社会的快楽を測定し,12の研究では実験室で社会的快楽を測定していた。

ランダム効果メタ解析の結果,統合失調症群では対照群よりも,消費的な社会的快楽が少なく,小さいながらも有意な差があった(Hedge’s g=-0.38,標準誤差0.10,90%信頼区間:-0.53--0.22,p<0.001)。ただし,研究間のエフェクトサイズの推定値の異質性は高かった(Q=95.08,p<0.001,I2=73.71)。

媒介分析では,社会的快楽の差は,実験室での測定よりも実世界での測定を実施した研究でより大きかった。また,消費的な社会的快楽の結果は,直接的な快楽測定法を用いた研究では,研究間でより一貫していることがわかった。

なお,メタ回帰分析では,統合失調症群の臨床的特性は,いずれも結果に有意な影響を与えなかった。

結論

安定した外来患者が主な対象ではあるが,統合失調症患者は健常群と比較して,消費的な社会的快楽が少ないようである。しかし,この欠損の程度は,予期された快楽や回顧的な快楽に関する研究よりも小さなものである。従って,統合失調症患者では,従来の快楽喪失(アンヘドニア)の研究が示唆するほど,消費的な社会的快楽については損なわれていない可能性がある。更に,統合失調症患者において観察される快楽の障害は,社会的快楽に対する能力の差というよりも,日常的な社会的経験の質の差に起因している可能性がある。本研究の結果は,統合失調症における社会参加への障壁,快楽が少ないとする信念,認知的是正に対処するための臨床介入に重要な示唆を与えるものである。

262号(No.4)2023年9月27日公開

(谷 英明)

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