初回精神病エピソード患者における非現実的バイアスの受容,心の理論,妄想の関連について:縦断研究

SCHIZOPHR RES, 254, 27-34, 2023 Associations Between Acceptance of the Implausible Bias, Theory of Mind and Delusions in First-Episode Psychosis Patients; A Longitudinal Study. Panula, J. M., Lindgren, M., Kieseppä, T., et al.

背景

統合失調症などの精神病は,現実に対する感覚が障害されているという特徴があり,多くの場合,妄想や幻覚を伴う。精神病患者は非現実的な事実についての受容性(liberal acceptance:LA)が健常者に比べ高い傾向があり,この認知バイアスが妄想を悪化させている可能性がある。

過去の初回エピソード精神病(first-episode psychosis:FEP)患者や慢性期統合失調症患者を対象とした認知バイアスに関する研究はあるものの,認知バイアスが精神病の経過の中で変化するのかどうかについてはほとんどわかっていない。FEP患者を対象とした縦断研究を行うことにより,認知バイアスが精神病の一因なのか,もしくは危険因子なのか(State or trait)について有益な情報を得ることができると考えられる。

本研究では,非現実的バイアスの受容(acceptance of the implausible:AOI)と心の理論(Theory of mind:ToM),妄想の重症度をFEP患者と健常者で評価した。加えて,12~15ヶ月の時点でFEP患者におけるAOIと妄想の重症度を評価することにより,認知バイアスの変化について検討した。

方法

97名のFEPの外来患者が選ばれ,62名が全ての認知バイアステストを完了した。対照群として年齢と性別をマッチさせた62名の健常者を組み入れた。12~15ヶ月の追跡評価を完了したのは両群とも40名であった。

妄想の重症度はBrief Psychiatric Rating Scale(BPRS)-11で評価した。ToMはヒントタスクにより評価した。AOIは映画『アリス・イン・ワンダーランド』の一部のシーンを見せて,その現実性について0~100(0=現実では全くあり得ない,100=現実でも十分あり得る)の判断をさせることによって評価した。

結果

基準時点で,FEP患者のAOI評点は健常者に対して高かった(p=0.003)。FEP患者において,AOI評点が高いほど,妄想の重症度が高く(p<0.001)(図a),ToMの欠陥が顕著である(p=0.002)ことが明らかになった。

追跡1年目の認知バイアステストでは,ほとんどの患者が精神病は寛解していたが,AOI評点は基準時点と同様に健常者に比して高かった(p=0.038)。また,基準時点のAOI評点と追跡時点のAOI評点は相関していた(p<0.001)(図c)。ToMの欠陥とAOI評点の高さの相関は追跡時点でも観察されたが(p=0.026)(図b),AOI評点の高さと妄想の重症度との相関は追跡時点では見られなかった。

考察

本研究は,FEP患者において,認知バイアスが経過で変化する特徴(state like)なのか,変化しない特徴(trait like)なのかを検討した初めての研究である。また,認知バイアスと妄想の重症度,ToMとの関連についても検討した。今回の結果は,ファンタジー映画の内容が現実に起きそうかどうかという判断においてFEP患者と健常者に違いがあることを示している。このAOI評点で示される認知バイアスは,症状が軽快した1年後でも変化しておらず,FEP患者における変化しない特徴(trait like)であることが示唆される。

今回の結果ではAOIの認知バイアスと精神病の因果関係について結論付けることはできないが,認知バイアスが精神病の変化しない特徴(trait like)としての危険因子であるという仮説を支持していると言える。また,今後のAOI評価を利用した統合失調症の予測評価研究の可能性も支持している。 

図. FEP患者の基準時点におけるAOI評点,BPRS-11妄想の評点,ヒントタスク評点と,追跡時点におけるAOI評点の分布

262号(No.4)2023年9月27日公開

(岩田 祐輔)

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