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PSYCHOABSTRACT 262号（No.4）2023年9月27日公開 >
統合失調症患者における陽電子放射断層撮影を用いたホスホジエステラーゼ10Aの評価

統合失調症患者における陽電子放射断層撮影を用いたホスホジエステラーゼ10Aの評価

SCHIZOPHR BULL, 49, 688-696, 2023 Positron Emission Tomography Assessments of Phosphodiesterase 10A in Patients With Schizophrenia. Kubota, M., Takahata, K., Matsuoka, K., et al.

背景

ホスホジエステラーゼ10A（PDE10A）は，皮質からのグルタミン酸作動性入力と中脳からのドパミン作動性入力とが統合する大脳基底核に高く発現しており，ドパミンの働きを制御し細胞内のシグナル経路制御において重要な役割を果たすことが知られている酵素である。前臨床研究ではPDE10A阻害薬が統合失調症の新規治療薬の候補であり，統合失調症においてPDE10Aの大脳基底核での亢進が示唆されている。

これまで，統合失調症患者においてPDE10Aをターゲットとした陽電子放射断層撮影（PET）研究は2報あるが，[¹¹C]IMA107を用いた研究では統合失調症群と健常群で結合能に差がない，[¹¹C]Lu AE92686を用いた研究では統合失調症群で健常群に比べて結合能が低下していると報告されており，いずれも前臨床研究から想定される結果とは異なるものであった。これらの研究では線条体を解剖学的な区分での下位領域（尾状核，被殻，側坐核）に分けてPDE10Aの結合能を調べていたが，統合失調症において線条体でドパミンの機能障害が報告されているのは機能的な区分での背側の領域であり，解剖学的な下位領域ではなく機能的な区分に基づいた下記領域で調べることが望ましい。

本研究の目的は，PDE10A PETトレーサーである[¹⁸F]MNI-659を用いて，統合失調症患者において中枢でのPDE10Aを調べると共に，線条体における[¹⁸F]MNI-659の結合能と，臨床症状，認知機能，グルタミン酸濃度［MRスペクトロスコピー（magnetic resonance spectroscopy：MRS）で測定］との関連を調べることである。

方法

27名の統合失調症患者（5名の抗精神病薬未服薬を含む），及び性別と年齢をマッチさせた健常者を組み入れた。

認知機能は統合失調症認知機能簡易評価尺度（Brief Assessment of Cognition in Schizophrenia：BACS）日本語版，精神症状は陽性・陰性症状評価尺度（PANSS）を用いて評価した。

[¹⁸F]MNI-659 PETは小脳灰白質を参照領域として受容体結合能（BP_ND）で定量化し，線条体の三つの機能的な下位領域（辺縁系領域，遂行機能領域，感覚運動領域）と淡蒼球を関心領域とした。グルタミン酸濃度はMRSを用いて左線条体及び背外側前頭前野（DLPFC）で調べた。

[¹⁸F]MNI-659 BPND値の群間差を調べるために，共分散多重分析（MANCOVA）を行った。従属変数は四つの関心領域（線条体の三つの機能的な下位領域及び淡蒼球）における[¹⁸F]MNI-659 BPND値，独立変数は診断（患者または健常者），共変量は年齢及び性別とした。BP_ND値に対する診断の影響が有意な場合は事後解析を行った。

各領域におけるBP_ND値とBACSの下位項目の点数との関連（両群でそれぞれ），BP_ND値と患者における臨床変数［PANSSの下位項目の点数，発症時期，抗精神病薬の服薬量（患者群）］との関連，各領域におけるBP_ND値と線条体及びDLPFCにおけるグルタミン酸濃度との関連（両群でそれぞれ）を，p値＜0.05/4（両側，Bonferroniにより関心領域で多重補正）で調べた。

結果

MANCOVAでは，診断の[¹⁸F]MNI-659 BP_ND値に対する有意な主効果が示され（F_4，47＝2.94，p＝0.03），事後解析では多重補正に耐えないものの，感覚運動の領域でBP_ND値が高い傾向があった（F_1，50＝6.02，p＝0.02）。サンプルサイズが小さいために統計学的に有意ではないものの，抗精神病薬未服薬の5名でもこの傾向が見られた（F_{4, 25}＝1.65，p＝0.19）。

健常者群では，感覚運動領域のBP_ND値とBACS下位項目のロンドン塔課題の成績とが有意な負の相関を示したが（Pearson’s r＝－0.58，p＝0.001），患者群では他の項目も含め，有意な相関は認められなかった。

BP_ND値とグルタミン酸濃度にも有意な関連は見られなかった。