母親と父親のうつ病の症状と子どもの情緒的問題:ネットワークモデルを用いて

BR J PSYCHIATRY, 222, 204-211, 2023 Mother and Father Depression Symptoms and Child Emotional Difficulties: A Network Model. Martin, A. F., Maughan, B., Konac, D., et al.

背景

幼児の親にとって,うつ病は一般的なものであり,10人に1人の母親や父親が臨床水準の症状を経験し,2人のうち1人が準臨床的症状を経験する。両親のうつ病は同時に発症することが多く,母親と父親の最大50%が同時に症状を経験する。親のうつ病は子どもの情緒的問題の最も強い危険因子の一つであると報告されており,両親にうつ病が生じた場合には,そのリスクは片親がうつ病である場合と比較して更に増加し得る。しかし,両親でうつ病症状が同時発生すること,及びそれと子どもの情緒的問題との関連を説明するに足る症状の機序について,わかっていることは少ない。

目的

本研究の目的は,第一に,母親と父親のうつ病症状のネットワーク構造の概観を調査すること,第二に,症状ネットワークを強化・活性化させる,母親と父親の症状間の経路となる橋渡しの症状を把握すること,第三に,橋渡しの症状や,他の症状が思春期に移行する子どもの情緒的問題に関連するかどうかを調査することとした。

方法

英国で現在進行中の前方視的コホート研究である,親と子どものAvon縦断研究(Avon Longitudinal Study of Parents and Children:ALSPAC)の参加者から,母親・父親・子どものデータが揃っている4,492組を本研究に組み入れ,二つのネットワークモデルを用いた検討を行った。

うつ病症状については,エジンバラ産後うつ病質問票(Edinburgh Postnatal Depression Scale:EPDS)に,子どもの年齢が21ヶ月であった時点で両親が回答した。子どもの情緒的問題については,子どもの強さと困難さ質問票(Strengths and Difficulties Questionnaire)に,子どもの年齢が9歳,11歳,13歳の時点で,母親が回答した。

解析には二つのモデルを推定し,一つ目のネットワークでは子どもの生後21ヶ月における母親と父親のうつ病症状の全体的なネットワーク構造の検討と,母親と父親の症状の間の橋渡し症状を同定した。二つ目のネットワークモデルでは,子どもの情緒的問題の因子スコアを含むモデルを推定し,親の症状ネットワークとの関連を調べた。

結果と考察

母親と父親の症状の全体的なネットワーク構造については,パニック,心配,罪悪感が母親と父親でクラスター化しており(図a),これらの症状がEPDSの不安に関連するうつ病の因子を構成していることを示唆していた先行研究の結果を裏付けるものであった。

うつ病症状の橋渡しとなる症状については,両親で罪悪感と自傷念慮が共通していた。これらの症状が入口として機能しており,もう一方の親の症状より広いネットワークを相互に活性化・強化することが示唆される。

親の症状と思春期に移行する子どもの情緒的問題の関連については,子どもの情緒的問題と直接関連していた症状は,母親では,罪悪感,アンへドニア,パニック,悲しみであり,父親では,圧倒されている感覚の症状のみであった(図b)。また,父親の罪悪感とアンヘドニアが,母親の同じ症状を介して間接的に子どもの情緒的問題に至る媒介経路のエビデンスも見出された。これらの症状は,家族内でのうつ病の伝播に対処する介入において,治療的不活性化のターゲットとなる可能性がある。

図. ネットワークモデル

262号(No.4)2023年9月27日公開

(冨山 蒼太)

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