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PSYCHOABSTRACT 262号（No.4）2023年9月27日公開 >
実行制御ネットワークまたはデフォルトモードネットワークの機能的結合性と，うつ病から寛解した高齢者または軽度認知障害を持つ高齢者における認知機能低下との関係

実行制御ネットワークまたはデフォルトモードネットワークの機能的結合性と，うつ病から寛解した高齢者または軽度認知障害を持つ高齢者における認知機能低下との関係

NEUROPSYCHOPHARMACOLOGY, 48, 468-477, 2023 Association of Functional Connectivity of the Executive Control Network or Default Mode Network With Cognitive Impairment in Older Adults With Remitted Major Depressive Disorder or Mild Cognitive Impairment. Rashidi-Ranjbar, N., Rajji, T. K., Hawco, C., et al.

背景

うつ病（Major Depressive Disorder：MDD）は認知症全般及びアルツハイマー型認知症（Alzheimer’s dementia：AD）の発症リスクであることが報告されてきた。高齢者のMDDは軽度認知障害（Mild Cognitive Impairment：MCI）を合併することが多く，両者の合併によって将来の認知症発症リスクが上昇することが知られている。MDDと認知症を繋げる病態仮説として，MDDでは実行制御ネットワーク（Executive Control Network：ECN）を司る前頭葉‐実行回路，及びデフォルトモードネットワーク（Default Mode Network：DMN）を司る前頭葉‐辺縁系回路の障害が認知機能の予備能を低下させ，認知症及びADの発症リスクを上げるというものがある。

著者らのグループは過去に，寛解したMDD及びMCIを伴う寛解したMDD群では，前頭葉‐実行回路及び前頭葉‐辺縁系回路における白質・灰白質の脳構造上の変化が，健忘型のMCI及びADと同じでなかったことを報告している。

本研究では，機能的核磁気共鳴画像（fMRI）を用いて，ECNとDMNの安静時における機能的結合性（resting state functional connectivity：rsFC）の変化を，①MDDが寛解し，認知機能が正常である群（MDD-NC），②MDDの病歴がない非健忘型MCI（naMCI），③MDDの病歴がある非健忘型MCI（MDD＋naMCI），④MDDの病歴がない健忘型MCI（aMCI），⑤MDDの病歴がある健忘型MCI（MDD＋aMCI），及び対照群として⑥AD患者，⑦健常者（HC）の7群を対象として調べた。

方法

7群全体で383名（①MDD-NC：49名，②naMCI：42名，③MDD＋naMCI：32名，④aMCI：101名，⑤MDD＋aMCI：51名，⑥AD：46名，⑦HC：62名）のfMRIデータが得られた。寛解したMDD群は65歳以上であり，1回以上の大うつ病エピソードがあり少なくとも2ヶ月以上寛解していた。MDDを合併しないMCI群は60歳以上であり，生涯大うつ病エピソードがないものとした。MCIの分類については，神経心理学的検査で記憶障害があればaMCIとし，なければnaMCIとした。被験者ごとに脳全体の機能的結合性マップを作成し，それぞれのネットワークごとにrsFCの群間差を調べた。認知症のリスクが低い方から，⑦HC，①MDD-NC，②naMCI，③MDD＋naMCI，④aMCI，⑤MDD＋aMCI，⑥ADの順に，ECNとDMNのrsFCの変化が大きくなるという仮説を立てた。また，ECNとDMNの機能的結合性マップ上で，疾患横断的に，六つの認知ドメイン（遂行機能，処理速度，言語，視空間記憶，言語記憶，作動記憶）の神経心理検査の得点とrsFCの相関を調べた。

結果

DMNにおいて，線形の群間比較の有意な効果はなかった。更に，ECNのネットワーク内rsFCには群間で有意差はなかった。しかし，⑥AD群では，⑦HC群・①MDD-NC群・②naMCI群と比べて，ECN‐体性感覚ネットワーク（somatosensory network：SMN）‐縁上回間での逆相関が弱かった（p＜0.05）。

処理速度はECNとSMN間のrsFCと負の相関を示し，作動記憶はDMNと右島回と上側頭回間のrsFCと正の相関を示し，視空間記憶はDMNと左縁上回と上頭頂小葉間のrsFCと負の相関を示した。