35,255名の強迫症患者における,統合失調症への診断的進行:縦断追跡研究

EUR ARCH PSYCHIATRY CLIN NEUROSCI, 273, 541-551, 2023 Diagnostic Progression to Schizophrenia in 35,255 Patients With Obsessive–Compulsive Disorder: A Longitudinal Follow-Up Study. Chen, M.-H., Tsai, S.-J., Liang, C.-S., et al.

背景と目的

これまでに,強迫症(OCD)と統合失調症の間には連続性があることが示唆されてきた。しかし,OCDから統合失調症への進行を予測する因子については未だ不明瞭である。また,それらの研究は白人を対象としているため,アジア人などのその他の人種へ知見を一般化することには問題がある。

そこで,本研究では,台湾国民健康保険研究データベース(Taiwan’s National Health Insurance Research Database:NHIRD)のデータを利用し,OCD患者における統合失調症への診断的進行について調査した。

対象

NHIRDより,匿名化された,2001年1月1日~2011年12月31日のデータを利用した。NHIRDには,ICD-9-CMによる精神障害の診断,人口統計学的データ(生年月日,性別,居住地,収入)が含まれる。参加基準は,2001年の1月~2010年12月に10歳以上かつOCDと診断された患者で,OCDコホートへの参加までに統合失調症の経歴がないこととした。本調査では,参加から2011年12月31日,あるいは死亡による脱落まで追跡した。

共変量

基準時点で,併存する精神疾患と身体疾患,家族歴を評価・特定した。OCDコホートには,チャールソン併存疾患指数(Charlson Comorbidity Index:CCI)と,全ての受診履歴が含まれた。所得水準を3段階,また,都市化水準を1~5段階で評価したものを,台湾における医療の利用可能性の指標として利用した。潜在的な検出バイアスを考慮して,OCDコホートにおける年間精神科受診回数を変数に含めた。

統計解析

統合失調症への進行について生存分析を実施した。進行率の推定にはKaplan-Meier法を用い,候補となる予測因子の有意性検討にCox回帰分析を用いた。更に,予測因子の候補の中から,進行に関わる因子を決定するにはステップワイズCox回帰分析を実施した。生存分析におけるハザード比(HR)とは,進行ありの場合と進行なしの場合におけるハザード率の比である。受信者動作特性(ROC)曲線は,統合失調症への診断的進行に対する確率の予測能力を調べるために計算した。また,OCDから統合失調症への進行における年齢の影響を調べるため,28歳未満と28歳以上で層別化し,Kaplan-Meier法とCox回帰分析を実施した。前駆期間による誤診を避けるため,自閉スペクトラム症(ASD),双極性障害,A群パーソナリティ障害と診断された患者,統合失調症の家族歴がある患者を除外して感度分析を行った。

結果

OCDコホートには,年齢34.54±15.13歳の35,255名が含まれた。最終的に,6.0%のOCD患者が,平均で2.32±2.35年の追跡期間中に統合失調症に進行した。進行率は初めの2年間で3.55%と最も高く,2年目以降では漸減した。年齢層別化Kaplan-Meier分析の結果,推定進行率は28歳未満の患者で10.88%,28歳以上の患者で5.71%であった。感度分析では,全体の推定進行率は6.69%であった。

補正後Cox回帰分析の結果,OCD患者におけるその後の統合失調症への進行リスク上昇と関連していた因子(HR,95%信頼区間)は,男性(1.23,1.12-1.35),肥満(1.77,1.49-2.10),ASD(1.69,1.38-2. 07),双極性障害(1.69,1.41-2.02),心的外傷後ストレス障害(PTSD)(1.65,1.06-2.58),A群パーソナリティ障害(2.50,1.89-3.32),統合失調症の家族歴(2.57,2.13-3.11)であった。統合失調症への進行リスクの低減と関連していた因子(HR,95%信頼区間)は,参加時の年齢が若いこと(0.97,0.97-0.98),アトピー性疾患の併存(0.75,0.66-0.85),CCI評点(0.90,0.85-0.95),注意欠如・多動症(ADHD)の併存(0.73,0.60-0.89),C群パーソナリティ障害の併存(0.54,0.30-0.75),高所得(0.34,0.29-0.39)であった。

ROC曲線では,人口統計学的特性,身体的・精神的併存疾患,CCI評点,家族歴などを統合すると,個々の臨床的・人口統計学的因子(いずれもp>0.05)と比較し,OCDから統合失調症への進行に対する予測確率が高いことがわかった(曲線下面積=0.802,p<0.001)。

結論

本研究では,男性,ASD・双極性障害・PTSD・A群パーソナリティ障害・肥満の併存,統合失調症の家族歴は,OCD患者における統合失調症への診断的進行のリスク上昇と関連していることが明らかになった。逆に,参加年齢の若さ,ADHD・C群パーソナリティ障害・アトピー性疾患の併存,高所得は,OCDから統合失調症への診断的進行のリスク低減と関連していた。

262号(No.4)2023年9月27日公開

(舘又 祐治)

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