強迫症,及び強迫症と不安症の世代間の関連について,スウェーデン国民データベースを用いた拡大養子研究

JAMA PSYCHIATRY, 80, 314-322, 2023 Obsessive-Compulsive Disorder and Its Cross-Generational Familial Association With Anxiety Disorders in a National Swedish Extended Adoption Study. Kendler, K. S., Abrahamsson, L., Ohlsson, H., et al.

背景と目的

過去の双生児研究によると,強迫症(OCD)は家系内集積性があり,その遺伝率は30~50%と推測されている。一方で養子研究の報告はなく,親子間の遺伝の要因が遺伝子によるものなのか養育環境によるものなのかは不明である。加えて,DSM-5ではOCDを新たに他の不安症(ADs)から独立させており,ICD-11でも同様の変更が検討されているものの,先行研究ではOCDとADsは遺伝的なリスクを相当部分共有していることが知られている。

そこで今回著者らは,第一にOCDの親子間の遺伝の要因について検討し,次にOCDとADsの親子間の遺伝的関連について検討した。

方法

スウェーデンの国民登録データベースを用いて,1960~1995年に誕生し少なくとも20歳に達するまで国内に在住していた個人を2018年末から追跡した。子の養育環境を,①実の両親との同居,②実の父親との別居,③義父との同居,④養子縁組家族(養父母と実の親のデータあり)の四つに分類した後,①を実の両親の遺伝子+養育,②を実の母親の遺伝子+養育と実の父親の遺伝子のみ,③を実の母親の遺伝子+養育と義父の養育のみ,④は実の両親の遺伝子のみ+養父母の養育のみ,へ曝露したと分類した。

転帰として,親のOCDとADs,子のOCDとADsに関して2×2で四分相関係数を推定した。更にOCDとADsの間の遺伝的要因による相関係数を推定した。

結果

子として2,413,128名を抽出した。追跡時点の平均年齢は40.2歳で,52.2%が男性,47.8%が女性であった。

親子共にOCDである場合,相関係数(95%信頼区間:CI)の推定量は,遺伝子+養育で0.19(0.17-0.20),遺伝子のみで0.18(0.11-0.24)と有意な相関が認められたが,養育のみでは0.04(-0.10-0.19)と有意な相関は認められなかった。また,親がOCDで子がADsの場合,相関係数の推定量(95%CI)は,遺伝子+養育で0.14(0.12-0.15),遺伝子のみで0.09(0.05-0.13),養育のみで0.05(-0.01-0.12)であった。同様に,親がADsで子がOCDの場合,相関係数の推定量(95%CI)は,遺伝子+養育で0.13(0.12-0.13),遺伝子のみで0.09(0.07-0.12),養育のみで0.04(0.01-0.07)であった。なお,親子共にADsである場合の相関係数の推定量(95%CI)は,遺伝子+養育で0.17(0.17-0.17),遺伝子のみで0.12(0.11-0.13),養育のみで0.07(0.05-0.08)であった。

OCDとADsの世代間伝達については,OCDとADsの間の遺伝的な相関は0.62(95%CI:0.46-0.77)であり,有意な相関が認められた。ADsの下位分類では,OCDと全般不安症で0.87(95%CI:0.53-1.00),OCDと社交不安症で0.70(95%CI:0.31-1.00),OCDとパニック症で0.47(95%CI:0.20-0.73)であった。なお,上記ではOCDとADsの併存例は全てOCDとして分類したが,診断の階層性をより厳密に考慮し,併存例を診断回数や診断時期に基づいて厳密に振り分けた場合には,これらの遺伝的相関はわずかに減弱した。

考察

今回の研究から,OCDの世代間伝達は,大部分は遺伝的要因によるものであり,養育環境が与える影響は小さいことが示唆された。また,OCDとADsとの間には有意な世代間伝達が認められ,両者の間の遺伝学的な相互関連が示唆される結果となった。ADsの下位分類では,特にOCDと全般不安症との間に強い遺伝的相関が見られ,OCDと社交不安症やパニック症との間の相関は中等度であった。

また,OCDとADsは高率に併存するため,過去の類似の研究ではOCDとADsの併存例の扱いが議論されることがあった。そこで今回は診断の階層性の考えに従ってより厳密な併存例の分類を試み,その結果OCDとADsとの遺伝的相関の程度はさほど変わらないことを確認した。

本研究の成果は,OCDとADsの間の疾病分類学上の関係について示唆を与えるものである。

262号(No.4)2023年9月27日公開

(荻野 宏行)

このウィンドウを閉じる際には、ブラウザの「閉じる」ボタンを押してください。