大気汚染と認知症:系統的レビューとメタ解析

BMJ, 381, e071620 , 2023 Ambient Air Pollution and Clinical Dementia: Systematic Review and Meta-Analysis. Wilker, E. H., Osman, M., Weisskopf, M. G.

背景

長期にわたる周囲の大気汚染は,認知症の修正可能な危険因子として認められている。大気汚染と認知症との関連を評価する研究は過去10年間に増加したが,認知症患者の特定,長期的な環境曝露の推定,関連の定量化に用いられているアプローチは研究によって異なる。著者らは,環境汚染物質と認知症の関連についての文献の系統的レビューとメタ解析を行い,潜在的なバイアスを評価し,潜在的なバイアスが集計結果の解釈にどのような影響を与える可能性があるかを明らかにした。

方法

2022年7月までのEMBASE,PubMed,Web of Science,Psycinfo,OVID Medlineデータベースの文献検索を実施した。検索は,アルツハイマー病及び認知症と,米国環境保護庁(EPA)の基準汚染物質または交通汚染及びその代用物質に関する曝露のフリーテキスト及び医学的主題見出しを使用した。成人(18歳以上)を含み,縦断的な追跡調査を行い,1年以上の曝露期間を考慮し,環境汚染物質曝露と臨床的認知症の関連についてハザード比,オッズ比,相対リスクまたは率比及び95%信頼区間(CI)を報告している研究をレビューの対象とした。

結果

データベース全体で2,079報の論文(1,092報)が特定され,更に他の論文の参考文献から1報の論文が発見された。組み入れ基準を満たした51報のうち,メタ解析で使用したのは16報のみであった。

PM2.5に関する14報の研究のうち,7報は北米,6報は欧州,1報は香港の研究であった。PM2.5については,2µg/㎥あたりの全体の認知症のハザード比が1.04(95%CI:0.99-1.09)であった。NO2[10µg/㎥あたりのハザード比1.02(95%CI:0.98-1.06)],NOx[同1.05(95%CI:0.98-1.13)]と認知症の関連が示唆され,それぞれ1報を除く全ての研究が小さいながらもハザード比の上昇を示した(図)。

地域別に分析すると,PM2.5曝露量2µg/㎥変化あたりのハザード比(95%CI)は,北米では1.03(0.98-1.08),欧州では1.21(0.90-1.63),アジアでの1報では1.04(1.00-1.07)であることがわかった。PM2.5については,2µg/㎥あたりのハザード比は7報の受動的症例確認研究では1.03(95%CI:0.98-1.07),7報の能動的症例確認研究では1.42(95%CI:1.00-2.02)で,この差はメタ回帰では統計学的有意差に近づいた(p=0.06)。O3との明確な関連は認められなかった[5µg/㎥ではハザード比1.00(95%CI:0.95-1.05)]。

結論

本研究の結果は,大気汚染物質が認知症の危険因子であるという証拠を補強し,更に,これらの汚染物質への集団曝露を減らす努力が,認知症による個人的・経済的・社会的負担を減らすのに役立つ可能性を示唆している。

図. NO2,NOx,O3のランダム効果メタ解析

262号(No.4)2023年9月27日公開

(大谷 愛)

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