注意欠如・多動症の小児や思春期例に対するメチルフェニデート長期投与の安全性:注意欠如・多動症薬物使用の長期的な影響(ADDUCE)研究の2年転帰

LANCET PSYCHIATRY, 10, 323-333, 2023 Long-Term Safety of Methylphenidate in Children and Adolescents With ADHD: 2-Year Outcomes of the Attention Deficit Hyperactivity Disorder Drugs Use Chronic Effects (ADDUCE) Study. Man, K. K. C., Häge, A., Banaschewski, T., et al.

背景

注意欠如・多動症(ADHD)は世界的に,小児思春期において5~7%の有病率が認められており,精神刺激薬であるメチルフェニデートがその第一選択薬として,多くのガイドラインにおいて推奨され,世界的に最も頻繁に処方されている。しかし,長期使用におけるリスクベネフィットがいまだ明らかではなく,安全性や忍容性に関するデータも,短・中期的なものに比べ,長期的なものが乏しい現状がある。欧州医薬品庁(European Medicines Agency)によれば,小児思春期における52週以上の使用に際し,成長発達,神経学的な健康,精神の健康,性発達や生殖能力,心血管系の反応に与える影響についての知見が不十分であるとされた。

本研究は,ADHD薬物使用の長期的な影響(Attention Deficit Hyperactivity Disorder Drugs Use Chronic Effects:ADDUCE)研究プログラムのデータを提示し,ADHDに対して継続的な薬物療法を行う場合とそうでない場合の比較や,メチルフェニデート長期使用における安全性の評価を,2年間の前方視的コホート研究を通じて行うものである。

方法

ADDUCE研究は小児思春期(6~17歳)におけるメチルフェニデートの長期的な安全性について調査するための,2年間にわたる,前方視的な,医薬品の安全性を監視する多施設共同研究である。英国,ドイツ,スイス,イタリア,ハンガリーにある27ヶ所の小児思春期精神保健センターが参加した。メチルフェニデート治療を開始予定とした,ADHDかつ薬物未投与群(メチルフェニデート群),ADHDのいかなる薬物療法も開始しない,ADHDかつ薬物未投与群(非メチルフェニデート群),ADHDでない対照群,の3群の参加者を募集した。

ADHDの診断はDSM-Ⅳに準拠した。対照群については,ADHD群と同世代の,ADHDのSwanson, Nolan, and Pelham評価尺度Ⅳ(SNAP-Ⅳ)の平均評点が1.5未満,かつ子どもの強さと困難さアンケート親版(parent-rated Strengths and Difficulties Questionnaire:SDQ-P)における多動スコアが正常範囲内(6未満)だった者とした。過去にADHD治療薬を服薬したことがある場合は除外したが,それ以外の向精神薬を服薬したことがある,もしくは服薬中の場合は組み入れた。

主要転帰は身長発育速度,副次転帰は体重と体格指数(BMI)とした。他に心血管系の状態,抑うつや精神病症状,運動及び音声チック,自殺傾向,物質使用,ADHDや反抗挑戦性障害の中核症状,ジスキネジアに関する神経学的転帰について評価した。

結果

2012年2月1日~2016年1月31日に,756名がメチルフェニデート群に,391名が非メチルフェニデート群に,263名が対照群に組み入れられた。

ADHD群のSNAP-Ⅳ評点は対照群に比して高く(p<0.001),メチルフェニデート群では非メチルフェニデート群よりも高かった(p<0.001)。重大な副作用の報告はなく,身長発育速度やBMIにも群間差は認められなかった。基準時点と比べて24ヶ月後の収縮期血圧(108mm Hgから113 mm Hg,p<0.0001),拡張期血圧(65mm Hgから67 mm Hg,p=0.02),心拍数(80回/分から83回/分)はメチルフェニデート群において上昇した。その他の転帰について,メチルフェニデートの悪影響は認められなかった。

結論

2年間のメチルフェニデート使用はおおむね安全であることが示唆されたが,心機能については定期的なモニタリングが必要と考えられた。

262号(No.4)2023年9月27日公開

(滝上 紘之)

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