アルコール使用障害及び不安レベルの高い患者におけるコルチコトロピン放出因子受容体1(CRF1)拮抗作用:トリーア社会的ストレス試験の動画フィードバック時の神経反応に及ぼす影響

NEUROPSYCHOPHARMACOLOGY, 48, 816-820, 2023 Corticotropin-Releasing Factor Receptor 1 (CRF1) Antagonism in Patients With Alcohol Use Disorder and High Anxiety Levels: Effect on Neural Response During Trier Social Stress Test Video Feedback. Lee, M. R., Rio, D., Kwako, L., et al.

背景

アルコール使用障害の前臨床モデルでは,特に扁桃体延長部において,コルチコトロピン放出因子(CRF)受容体の発現が上昇しており,視床下部‐下垂体‐副腎軸とは独立したメカニズムで,ストレスによる飲酒の再燃に関与していると考えられている。

前臨床試験において抗不安作用を示す,選択的,経口投与可能な脳内浸透性CRF1受容体拮抗薬であるpexacerfont*の二重盲検プラセボ対照臨床試験の一環として,本研究では,機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)に適合させた社会的ストレス課題に対するpexacerfontの神経反応への影響を検討した。

方法

高い特性不安と中等度~重度のアルコール使用障害を持つ39名(女性4名)の被験者を,pexacerfontまたはプラセボに無作為に割り付け,30日間投与した。

ストレス誘導は,トリーア社会的ストレス試験(Trier Social Stress Test:TSST)を実験室で行い,fMRI課題用にビデオ撮影を行った。主観的不安は主観的不安尺度(Subjective Units of Distress Scale:SUDS)で,アルコール渇望はアルコール渇望に関する質問票(Alcohol Urge Questionnaire:AUQ)で評価した。内分泌反応(副腎皮質刺激ホルモンとコルチゾール)は,およそ20分前から90分後まで10分ごとの連続採血で測定した。

fMRI課題は,自分(SELF)と他者(OTHER)の30秒の短い動画(それぞれ7本)を無作為に交互に提示するもので,総撮像時間は900秒(15分)であった。

SELF vs OTHERの対比(SELF>OTHER)は,ボクセル当たりのp値を0.0001として検定した。Pexacerfont群とプラセボ群のSELF vs OTHERの対比を比較するt検定を行った。心理的特性をモデルに追加し,SELF vs OTHERにおいて,それぞれの指標と薬物(pexacerfont vs プラセボ)との間に交互作用があるかどうかを調べた。ストレスの客観的指標と,アルコール渇望及び苦痛の主観的指標をSELF>OTHER解析の共変量として入力し,実際のTSST中に経験したストレスが,ストレス下のSELF表示に対する神経反応に影響するかどうかを検討した。

結果

SELF>OTHERの対比において,血中酸素濃度依存性(BOLD)反応に対する薬物の有意な影響は見られなかった。全脳及び関心領域(ROI)解析において,SELFとOTHERの対比で,薬物×心理・ストレス反応の有意な交互作用は見られなかった。群全体でSELF>OTHERでは,薬物の条件にかかわらず,両側の島皮質,上・内側・下前頭回に有意な活性化が見られた。心理・ストレス反応指標を共変量に用いても,全脳やROI解析におけるSELF vs OTHERの対比の神経活性化は変化しなかった。

結論

Pexacerfontは,ストレス下での自己観察に対する神経反応に影響を与えなかった。ストレス下での自分を観た神経反応は、ストレス下での未知の他者を観た神経反応比較して,島皮質,下・内側・上前頭回などの前頭前野の領域を活性化した。これらの活性化領域は,類似のパラダイムを用いた研究で発見された領域と重複している。この課題は,依存症で障害される神経回路の探索に応用される可能性があると考えられる。

*日本国内では未発売

262号(No.4)2023年9月27日公開

(米澤 賢吾)

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