左背外側前頭前野への反復経頭蓋磁気刺激が精神神経障害の症状領域に及ぼす影響:系統的レビューと疾患横断的メタ解析

LANCET PSYCHIATRY, 10, 252-259, 2023 Effects of Repetitive Transcranial Magnetic Stimulation of the Left Dorsolateral Prefrontal Cortex on Symptom Domains in Neuropsychiatric Disorders: A Systematic Review and Cross-Diagnostic Meta-Analysis. Kan, R. L. D., Padberg, F., Giron, C. G., et al.

背景

精神保健研究における現代の議論は,生物学的マーカー開発,予後予測,個別化された治療介入において実質的な進歩が少ないのは,方法論的な限界というよりも,精神保健研究における概念的な制約のためであるとしている。このような制約を克服するために,精神保健ケアに対する代替的なアプローチでは,カテゴリー的な定義を越えて,精神保健の疾患横断的な症状領域に基づく次元的な分類法や治療法へと移行することが提案されている。このような疾患横断的アプローチは,理論的には,どの診断にも特異的でない有効な介入の作用機序を調査することを可能にする。

このような介入の例として,異なる脳領域への非侵襲的な反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)療法がある。うつ病,双極性障害,そして統合失調症の陰性症状では,左背外側前頭前野への高頻度rTMS療法が最も一般的なプロトコルである。しかし,この治療が,症状や診断カテゴリーに特異的であるかどうかは明らかにされていない。左背外側前頭前野へのrTMS療法の豊富な有効性データを用いることで,神経精神障害全体に見られる情動,行動,認知領域に対する効果を,疾患横断的に比較することが可能である。

本系統的レビューと疾患横断的メタ解析は,左背外側前頭前野へのrTMS療法の,神経精神疾患のスペクトラムに見られる症状領域(認知機能や精神保健関連症状など)に対する治療効果を総合することを目的としている。

方法

2022年8月17日までに発表された論文を組み入れた。参加者の特徴,rTMS療法のプロトコル,副作用,臨床症状評価尺度などのデータを抽出した。組み入れ条件は,左背外側前頭前野にrTMS療法による介入を行っており,シャム刺激との比較を行っていることとした。各試験について,実刺激とシャム刺激を比較し,標準化平均差(Hedges’ g)と95%信頼区間(CI)を計算した。

結果

同定された9,056報の研究のうち,2,970報をスクリーニングし,174報が組み入れ対象となった。これらの試験には,32の診断とサブグループをカバーする7,905名の患者が含まれていた。

解析の結果,左背外側前頭前野のrTMS療法による抑うつ症状への効果は,異質性が非常に大きいにもかかわらず有意であり,エフェクトサイズは中程度であった(Hedges’ g=-0.725,p<0.0001)。不安症状へのメタ解析では,エフェクトサイズは小さいものの,有意な治療効果が示唆された(Hedges’ g=-0.385,p<0.0001)。最も大きなエフェクトサイズが示されたのは渇望症状に対してであった(Hedges’ g=-0.803,p<0.0001)。強迫症状へのエフェクトサイズは小さいながらも,有意であった(Hedges’ g=-0.473,p=0.039)。自殺念慮に対するrTMS療法の効果は認められなかった。

全般的認知機能(Hedges’ g=-0.437,p=0.0040),宣言的記憶(Hedges’ g=-0.321,p<0.0001),作動記憶(Hedges’ g=-0.198,p=0.045),認知制御(Hedges’ g=-0.230,p=0.0010)に対する効果は有意であったがエフェクトサイズは小さく,特定の認知領域(たとえば,注意,言語)に対する効果は有意ではなかった。

潜在的なエフェクトサイズの調整因子(すなわち,主診断,年齢)を検討したメタ回帰分析の結果,抑うつ障害の主診断は,左背外側前頭前野のrTMS療法の抗うつ効果の有意な予測因子であった(p=0.0036)が,これは他の主診断及び関連する症状領域には当てはまらなかった。

結論

本疾患横断的メタ解析は,左背外側前頭前野へのrTMS療法が複数の異なる症状領域に対して有効であることを示しており,rTMS療法の標的や効果の相互作用を評価するための新しい枠組みを提供し,通常の臨床試験では有益な情報が得られなかった症状に対する個別化されたrTMS療法に関する情報をもたらすものである。

262号(No.4)2023年9月27日公開

(和田 真孝)

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