両親の原発性免疫不全とその子どもの精神障害及び自殺行動との関連

JAMA PSYCHIATRY, 80, 323-330, 2023 Association of Primary Immunodeficiencies in Parents With Psychiatric Disorders and Suicidal Behavior in Their Offspring. Isung, J., Isomura, K., Williams, K., et al.

はじめに

母体免疫活性化は感染症や炎症状態によって引き起こされ,子どもの精神障害の危険因子であることが示されている。原発性免疫不全症候群(Primary antibody immunodeficiencies:PIDs)は自己免疫疾患や繰り返す感染症と関連しており,母体免疫活性化のモデルとみなすことができると考えた。

本研究では,母親のPIDsは子どもの精神障害発症の危険因子である一方で,父親のPIDsは危険因子ではないという仮説を立て,検証した。

方法

スウェーデンの個人ID番号と紐づいた複数種類の国民データベースを利用し,1973~2013年におけるスウェーデンの居住者を調査対象とした。全ての診断はICD(1969~1986年:ICD-8,1987~1996年:ICD-9,1997年以降:ICD-10)を用いた。全国患者登録簿を用い,1973~2013年にPIDsと診断された患者を抽出した。PIDsは免疫グロブリンの異常を呈する疾患とした。Multi-Generation Registerを用いてPIDsの親を持ち,2003年までに生まれた子どもを抽出した。

精神障害の有無[強迫症,注意欠如・多動症(ADHD),自閉スペクトラム症,統合失調症及び他の精神病性障害,双極性障害,大うつ病及びその他の気分障害,不安症及びストレス関連障害,摂食障害,物質使用障害,トゥレット症候群及びチック症],及び自殺関連行動(自殺企図または自殺既遂)を主要評価項目とした。

主要評価項目の頻度を,①PIDsを持つ母親または②父親から生まれた子ども群と,③PIDsを持たない親から生まれた子ども群と別々に(①vs③,②vs③),Poisson回帰モデルを用いて比較し,発症率比(incidence rate ratios:IRRs)と95%信頼区間(CI)を計算した。

交絡因子として,両親の誕生年,子どもの誕生年と性別,両親の精神病理,両親の自殺企図及び自殺既遂,両親の自己免疫疾患を補正した。各々の精神疾患診断サブグループ分析として,PIDsと自己免疫疾患を合併した親から生まれた子どもと,どちらも持たない親から生まれた子どもの比較を行った。

結果

3,954,937名の親と4,294,169名の子どもが組み入れられ,うち7,270名(0.17%)がPIDsを持つ親から生まれた子どもであった。

母親がPIDsを持っていた子どもは,母親がPIDsを持っていない場合と比較して有意に精神障害の発症率が高く(IRR=1.17,95%CI:1.10-1.25),自殺関連行動のリスクが高かった(IRR=1.20,95%CI:1.06-1.36)。精神障害別ではADHD,自閉スペクトラム症,双極性障害,うつ病性障害,不安症,物質使用障害の六つでリスク上昇が見られた。一方,父親がPIDsを持っていた子どもでは精神障害の発症リスク,自殺関連行動のリスクとも有意な上昇は見られなかった。

母親がPIDs及び自己免疫疾患の両方を持っていた子どもたちは,精神障害発症(IRR=1.24,95%CI:1.11-1.38)及び自殺関連行動(IRR=1.44,95%CI:1.17-1.78)のリスクが最も高かった。

結論

本研究において,母親のPIDsは子どもにおける精神障害発症及び自殺関連行動のリスク上昇と関連が認められた一方で,父親のPIDsでは関連が認められなかった。母親がPIDsと自己免疫疾患を合併している場合に子どものリスクは最も高かった。この関連は多因子によるものと考えられるが,本研究の結果は,母体免疫活性化により子どもの精神障害発症リスクが上昇するという仮説を支持するものである。

262号(No.4)2023年9月27日公開

(石田 琢人)

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