東日本大震災前後のパーソナリティと虚血性心疾患死亡リスクとの関連:宮城県コホート研究のデータより

J PSYCHIATR RES, 161, 84-90, 2023 Association Between Personality and the Risk of Ischemic Heart Disease Mortality Before and After the Great East Japan Earthquake: Data from the Miyagi Cohort Study. Sugawara, Y., Kanemura, S., Fukao, A., et al.

背景

2011年3月11日に東北地方を襲った東日本大震災(GEJE)は,被災地の人々の身体的・精神的健康に影響を与えた。パーソナリティは健康の重要な予測因子であり,肥満,心血管疾患,うつ病,全死因など様々な健康の転帰と関連することがよく知られている。更に,神経症性パーソナリティと虚血性心疾患(IHD)死亡リスクとの関連は一貫して報告されている。

本研究の目的は,GEJE被災者におけるパーソナリティとIHD死亡リスクとの関連を調べ,パーソナリティ特性がGEJE後に観察されたIHD死亡率の上昇に影響を及ぼすかどうかを検討することである。

方法

宮城前方視的コホート研究において,1990年6~8月に宮城県内の62市町村から無作為に選ばれた14市町村に居住する40~64歳の男女51,920名を対象に,2種類の自記式質問票を配布した。最終的に,回答があった29,065名のデータを分析した。

アイゼンク性格検査短縮版-改訂版(Eysenck Personality Questionnaire-Revised Short Form:EPQR-S)の日本語版を用いて,四つのパーソナリティ下位尺度(外向性,神経症性,精神病性,虚偽性)の各評点に基づき,参加者を四分位に分けた。

更に,追跡期間中(1990年6月1日~2015年3月31日)に14の自治体で死亡した全ての参加者の死亡証明書を調査した。追跡期間中に2,677名(男性1,195名,女性1,482名;全参加者の9.2%)が追跡不能になった。GEJEイベント(2011年3月11日)の前後8年間を二つの期間に分け,パーソナリティ特性とIHD死亡リスクとの関係を検討した。Cox比例ハザード分析を用いて,各性格下位尺度カテゴリーに応じたIHD死亡リスクの多変量ハザード比(HR)及び95%信頼区間(CI)を推定した。

結果

8年の追跡調査期間中に,IHDによる死亡を324名確認した。GEJE前の4年間で,神経症性はIHD死亡リスクの上昇と有意に関連していた。神経症度が最も低いカテゴリーと比較して,最も高いカテゴリーのIHD死亡率の多変量補正HR(95%CI)は2.19(1.03-4.67)(p-trend=0.12)であった。一方,GEJE後の4年間では,神経症性とIHD死亡率の間に統計学的に有意な関連は観察されなかった。

結論

本研究では,縦断的な人口コホート研究のデータを用いて,GEJE前後の期間におけるパーソナリティ特性とIHD死亡リスクとの関係を検討した結果,GEJE以前は神経症性がIHD死亡リスクの上昇と有意に関連していたが,GEJE後はこの関連は認められなかった。GEJE後に観察されたIHD死亡率の上昇はパーソナリティ以外の危険因子に起因する可能性があることを示唆しており,更なる研究を行う必要がある。

262号(No.4)2023年9月27日公開

(佐久間 睦月)

このウィンドウを閉じる際には、ブラウザの「閉じる」ボタンを押してください。