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PSYCHOABSTRACT 262号（No.4）2023年9月27日公開 >
幼少期・思春期の身体的及び性的虐待体験と早期死亡率との関係：女性看護師を対象とした前方視的コホート研究

幼少期・思春期の身体的及び性的虐待体験と早期死亡率との関係：女性看護師を対象とした前方視的コホート研究

BMJ, 381, e073613, 2023 Association of Early Life Physical and Sexual Abuse With Premature Mortality Among Female Nurses: Prospective Cohort Study. Wang, Y.-X., Sun, Y., Missmer, S. A., et al.

背景と目的

米国において身体的及び性的虐待に苦しむ子どもは，2020年時点でそれぞれ推計101,961名，57,963名とされている。幼少期もしくは思春期の身体的及び性的虐待が高血圧，自殺企図，暴力もしくは犯罪行為，2型糖尿病，心血管疾患との関連があるという先行研究がある。しかし，虐待と早期死亡率との関連は不明確である。更に，人生初期の虐待と成人期の抑うつや不安などの精神症状，バランスの悪い食事，肥満，喫煙などの不健康な生活習慣との関連を示した研究は多数あるものの，それらの交互作用を明らかにした研究はない。

本研究の目的は，人生初期の身体的及び性的虐待と，その後の早期死亡と死因との関連を明らかにすること，そして虐待と成人後の不安，抑うつ，不健康な生活習慣との交互作用，潜在的媒介的役割を明らかにすることである。

方法

Nurses’ Health Study Ⅱ（NHSⅡ）を利用して，2001年に「暴力被害の質問」に完答した37～54歳の67,726名の女性看護師を対象とし，前方視的コホート研究を行った。12歳未満を幼少期，12～17歳を思春期とした。早期死亡は，世界保健機関（WHO）の定義に従い70歳以前の死亡とした。

両親，義理の両親，その他の保護者による身体的虐待は改訂葛藤戦術尺度（Revised Conflict Tactics Scale）で評価した。性的虐待の評価は性的経験調査（Sexual Experiences Survey）で用いられた質問を修正したものを用いた。

主要評価項目は，幼少期及び思春期の身体的及び性的虐待と，総死亡・死因とのハザード比（HR）及び95％信頼区間（CI）で，多変量Cox比例ハザードモデルで解析した。

結果

67,726名のうち，幼少期もしくは思春期に身体的被虐待経験がなかったのは31,460名（46.5％）で，性的被虐待経験がなかったのは45,008名（66.5%）であった。

2019年6月30日までの18年の追跡期間に2,410名が70歳以前に死亡した。死因は874名ががん，154名が心血管疾患，94名が外傷と服毒，49名が自死，49名が呼吸器系疾患であった。幼少期及び思春期に重い身体的虐待を受けた看護師は，虐待経験のない看護師に比較して，未補正の早期死亡率は1,000人‐年当たり3.15 vs. 1.83，性体験を強いられた看護師は同じく4.00 vs. 1.90と高かった。また，年齢で補正後の早期死亡のHRはそれぞれ1.65（1.45-1.87）と2.04（1.71-2.44）であった。この傾向は，個人の特性や幼少期の社会経済的状況で補正しても変わらず，HR（95％CI）はそれぞれ1.53（1.35-1.74），1.80（1.50-2.15）であった。

死因分析では，重度の身体的虐待と関連があった死因（HR，95％CI）は，外傷と服毒（2.81，1.62-4.89），自死（3.05，1.41-6.60），消化器系疾患（2.40，1.01-5.68）であった。幼少期及び思春期の性行為の強要と関連のあった死因（HR，95％CI）は，心血管疾患（2.48，1.37-4.46），外傷と服毒（3.25，1.53-6.91），自死（4.30，1.74-10.61），呼吸器系疾患（3.74，1.40-9.99），消化器系疾患（4.83，1.77-13.21）であった。

早期死亡率に対して，身体的虐待と性的虐待には乗法的（p＝0.01）・加法的（p＝0.004）な交互作用が認められた。そして，いずれも虐待が重度の場合，早期死亡のリスクが最も高くなった。早期死亡に対して，人生初期の虐待と，成人後の食事の質，BMI，身体的活動度，抑うつとの交互作用に有意なものはなかった。しかし，性的虐待に喫煙，もしくは成人後の不安が重なると，早期死亡のリスクが高まった。具体的には，性的虐待＋喫煙群の交互作用による相対的な超過リスク（RERI）は0.63（95％CI：0.28-0.98），性的虐待＋不安のRERIは0.54（95％CI：0.19-0.89）であった。