精神科診療における閉塞性睡眠時無呼吸症候群の把握と管理

J CLIN PSYCHIATRY, 84, 22r14521, 2023 Recognition and Management of Obstructive Sleep Apnea in Psychiatric Practice. Benca, R. M., Krystal, A., Chepke, C., et al.



本総説では,閉塞性睡眠時無呼吸症候群(Obstructive sleep apnea:OSA)と精神障害との関係を説明し,精神科診療におけるOSAの把握と管理方法について概説することを目的とした。

方法

成人を対象とした英語の関連論文について,発行年の制限なくPubMedで文献検索を行った。精神疾患を持つ集団におけるOSA治療に関する追加の論文は,関連するガイドラインと検索されたレビュー論文の文献目録を手作業で検索することで入手した。

OSAと精神障害との関連

精神疾患を持つ集団におけるOSAの有病率については,複数の研究が,精神障害,特にうつ病や心的外傷後ストレス障害(PTSD)を持つ患者にOSAの併存が多いことを証明している。2015年の系統的レビューでは,クリニックベースの集団を対象とした研究におけるOSAの有病率の中央値(範囲)は,うつ病患者で48%(0~66),PTSD患者で43%(1~83)であり,いずれも一般集団よりかなり高い。

逆に,OSAが精神疾患の発症の独立した危険因子である可能性も示唆されている。ある縦断研究では,睡眠時無呼吸症候群の存在は,うつ病[補正ハザード比(aHR)=2.07]及び双極性障害(aHR=3.24)のリスクを有意に高めることに関連していた。

精神障害患者におけるOSAの臨床的意義

OSAの診断基準には,眠気,疲労,不眠の訴え,認知症状や気分症状が含まれる。これらはうつ病など,多くの精神障害の診断基準にも含まれるため,OSAの症状は,他の精神障害の評価尺度の評点に影響を与える。OSAが原因の候補として考慮されない場合,誤診を招き,治療への反応欠如と誤解される可能性がある。

12週間の治療を受けたうつ病患者を対象とした研究では,OSAのない患者では44%が治療に反応したのに対し,OSA患者では28%のみであった。逆に,OSAを適切に治療することで,精神障害を併存する患者の精神症状や治療成績が改善する。

自殺傾向への影響については,米国の成人40,149人を対象とした大規模調査で,睡眠時無呼吸症候群を有する人では自殺念慮が1.5倍(p<0.001),自殺企図が1.6倍(p<0.05)と報告されている。これらは,OSAが,自殺リスクを早期に発見する機会となる可能性を示唆している。

精神障害患者におけるOSAの認識

患者の愁訴表現は様々であり,時にOSAと精神症状の区別を困難にする。OSAの代表的な症状の一つである日中の過度の眠気(EDS)を説明する際に,眠気よりも疲労感,倦怠感,気力のなさを訴えることが多いという報告がある。

OSAを併発した精神障害患者の管理

中枢神経系抑制作用を持つベンゾジアゼピンやその他の睡眠薬は,上気道の筋緊張を低下させ,覚醒閾値を上昇させ,それによってOSAの症状を悪化させる可能性がある。非定型抗精神病薬では,重症のOSAを発症するリスクが2倍上昇する。精神科医は,EDSを経験するOSA患者には,覚醒作用のある薬剤や鎮静作用の少ない薬剤を選択し,鎮静作用や筋弛緩作用が顕著な薬剤は避けることが賢明である。

持続陽圧呼吸(CPAP)療法は,米国睡眠医学会が推奨するOSAの主要な治療法である。精神障害がある場合,CPAP療法のアドヒアランスに影響することがある。メタ解析では,PTSDとOSAの患者は,OSAのみの患者と比較して,アドヒアランスが有意に低いことが示された。

モダフィニルとarmodafinil*は,CPAP治療を受けたOSA患者のEDSに同様の改善をもたらし,QOLを改善することも示されているが,不眠を伴う可能性もある。

結論

OSAと精神障害の症状の重複は,誤診を招き,精神疾患患者の治療不反応の一因となり得る。併存率が高く,病因,症状,治療間の複雑な相互作用が考えられることから,精神科医は,EDSなどの睡眠関連症状を単に精神疾患や薬物療法の結果であると決めつけずに,OSAが併存している可能性を考慮し,患者のOSAを特定し管理することに注意を払うべきである。

*日本国内では未発売

262号(No.4)2023年9月27日公開

(野村 信行)

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