【テーマ①:COVID-19】
COVID-19パンデミック下の欧州におけるメンタルヘルス:系統的レビュー

LANCET PSYCHIATRY, 10, 537-556, 2023 Mental Health in Europe during the COVID-19 Pandemic: A Systematic Review. Ahmed, N., Barnett, P., Greenburgh, A., et al.

背景と目的

COVID-19パンデミック以降,メンタルヘルスの領域が懸念されるようになってきている。パンデミックとそれに関連する社会的制約の結果として,心理的苦痛の増加,精神疾患の発症の増加,精神疾患患者がすでに直面している困難の悪化などが生じることが考えられ,パンデミックに伴う支援の停止はメンタルヘルスに対するこれらの影響を更に悪化させるおそれがあった。そこで,本研究では,COVID-19パンデミックへの継続的な対応と,将来に起こり得る緊急事態への対応に役立てるため,欧州の高所得国におけるメンタルヘルスに関する疫学のエビデンスを体系的に検討した。

方法

パンデミック発生前後での比較,または発生期間中の異なる時点間での比較を行っており,本研究の以下の三つのリサーチクエスチョン(RQ)を扱った研究を対象として系統的レビューを実施した。すなわち,RQ1:メンタルヘルス上の問題の発生率や有病率にどのような変化があったか。RQ2:すでに精神疾患を抱えて生活している人々の生活の精神的苦痛,症状の程度,社会的機能,生活の質(QOL),自殺企図,自傷行為にどのような変化があったか。RQ3:精神医療サービスの利用にどのような変化があったか。

四つの電子データべース(MEDLINE,PsycINFO,Embase,CINAHL)において,2020年3月1日~2022年2月1日に出版された論文と,四つのプレプリントサーバ(MedRxiv,PsyArXiv,Wellcome Open Research,JMIR)において,2020年3月1日~2022年3月7日に公開された記事を調査した。調査にあたっては,COVID-19と,精神疾患,感情障害,不安症,パーソナリティ障害,摂食障害を含むメンタルヘルス状態を示す語とを組み合わせて検索した。調査対象は,高所得の欧州諸国における縦断研究と反復的横断研究のみとした。

データ抽出の様式を作成し,EPPI-Reviewer Webを使用して,対象となった研究の10%について試験を行った。標本は13名の査読者のうち1名が独立して抽出し,2人目の査読者がその正確性を確認した。各結果のエビデンスの確実性は,Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation(GRADE)システムを用いて,4名の著者のうち2名が独立して評価した。

抽出されたデータについて,精神疾患の発生率・有病率の変化,精神疾患患者における重症度・社会的機能・QOL・自殺企図・自傷行為,危機・急性期メンタルヘルスサービス,地域メンタルヘルス・外来患者サービス,メンタルヘルスに関するプライマリー・ケアにおけるメンタルヘルスサービス利用指標の変化を解析した。

結果と考察

タイトルと抄録のスクリーニングによって7,066報の記事が同定され,このうち687報の全文評価を行い,149報が選択基準を満たした。これにプレプリント等の検索で同定された31報を加えた180報で報告された177研究のうち,14研究(8%)が6~18歳の小児及び若年者,163研究(92%)が成人のメンタルヘルスの転帰を測定していた。サンプルサイズは20~24,897,725で,欧州20ヶ国の研究であった。

RQ1については,うつ病,全般不安症,非定型精神病の有病率が,パンデミック前よりもパンデミック中の方が高いという高~中程度の確実性を持つエビデンスがあり,統計的に有意な増加は0.25~31%であった。パンデミック後期(2021年)と初期(2020年)を比較した数少ない研究では,2020年と2021年の間でうつ病や非定型精神病の有病率にほとんど変化がないことを示す中程度の確実性を持つエビデンスがある。

RQ2については,パンデミック発生時に精神疾患のあった成人では,パンデミック発生後の全般的な精神病理と苦痛に統計学的に有意な変化はなく,抑うつ症状は有意に改善したこと示唆する,中程度~高い確実性のエビデンスがあった。

RQ3については,パンデミック中とパンデミック前,及びパンデミック中の異なる時点における医療サービス利用の結果に関して,全体として,中程度~高い確実性のエビデンスが,パンデミック前と比べてパンデミック初期では,重症及び急性のメンタルヘルスケアサービスの利用が減少したことを示唆した。

263号(No.5)2023年11月27日公開

(舘又 祐治)

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