抗精神病薬による体重増加と治療反応の正の関連:統合失調症の新しい生物型

PSYCHIATRY RES, 324, 115226, 2023 The Positive Association Between Antipsychotic-Induced Weight Gain and Therapeutic Response: New Biotypes of Schizophrenia. Lu, Z., Zhang, Y., Sun, Y., et al.

背景

近年,良好な治療反応(TR)と抗精神病薬による体重増加(AIWG)の関連が想定されているが,これは治療後の転帰に影響する特定の生物型が存在することを示唆する。本研究では,統合失調症患者を対象とした6週間の無作為化対照臨床試験のデータを用いて,この生物型を検出し,臨床的意味を検証した。

目的

本研究の目的は,潜在的なTR/AIWGの生物型を同定し,臨床的・遺伝的・神経画像的特徴を探ることである。

方法

3,030名の統合失調症患者を6群(アリピプラゾール群,オランザピン群,クエチアピン群,リスペリドン群,ziprasidone*群,第一世代抗精神病薬群)に均等かつ無作為に割り付けた。試験期間中の陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)減少率と代謝指標変化率の相関解析,反応群と非反応群の代謝指標変化率の比較,神経画像分析,生物型間の基準時点及び試験期間における比較,TR/AIWGの生物型に対するゲノムワイド関連解析(GWAS)を実施した。6週目終了時のPANSS減少率が50%以上であった者を治療反応者と定義した。

結果

完全な臨床データと遺伝的情報を有する2,296名が解析の対象となった。

試験期間中のPANSS減少率を代謝指標の変化率と比較したところ,PANSS減少率と正の相関を示したのは,2週目時点では,体重変化率(r=0.091,p<0.001),体格指数(BMI)(r=0.068,p=0.001),ウエスト周囲径(WC)(r=0.119,p<0.001)であり,6週目時点では体重変化率(r=0.192,p<0.001),BMI(r=0.154,p=0.001),WC(r=0.273,p<0.001),コレステロール(CHOL)(r=0.062,p=0.004),中性脂肪(TG)(r=0.053,p=0.015)であった。更に,反応群は,2週目時点における体重及びWCの変化率,6週目時点における体重,BMI,WC,CHOLの変化率が非反応群より高かった。

神経画像分析の対象は計80名であり,左補足運動野における低周波振動振幅強度(fALFF)は,ポリジェニックリスクスコア(PRS)と有意な負の相関を示した。

更に,患者をTR+非AIWGである生物型1(n=1,077,46.91%),TR+AIWGである生物型 2(n=432,18.82%),非TR+非AIWGである生物型3(n=787,34.27%)の三つの生物型に分類・定義し比較したところ,生物型2は他の二つより基準時点において体重,BMI,WC,TG,低比重リポタンパク(LDL),グルコース(GLU)が有意に低く,高比重リポタンパク(HDL)が有意に高かった。また試験期間においては,生物型2の2週目時点における体重,BMI,WCの変化率,6週目時点の体重,BMI,WC,CHOL,TG,HDL,LDLの変化率が他より有意に高かった。

生物型2のうち品質管理を合格した1,509名の患者にGWASを実施した。得られた関連遺伝子と,発表されているAIWG関連遺伝子との重複としてADIPOQ遺伝子が検出された。更に肥満のGWASに基づいてPRSを計算したところ,生物型2が他よりも有意に高かった(F=3.197,p=0.041)。また生物型2は,より高い糖尿病オッズと関連していた(オッズ比=1.05,95%信頼区間1.01-1.10;p=0.023)。しかし,肥満,脳卒中,心筋梗塞,高血圧,心筋梗塞,脳梗塞,高脂血症など,他の長期転帰に対する生物型2の因果関係は有意ではなかった。

更に生物型2となりやすい患者を予測する,マルチオミクスデータを用いた機械学習モデルを確立した。本モデルの識別能力を示す曲線下面積(AUC)は0.787に達した。

考察

本研究の限界として,クロザピンのように,AIWGを引き起こす可能性のある抗精神病薬の全てを扱えなかったことが挙げられる。また,治療期間や民族も限られたものであった。更に,この研究に組み入れられた患者は平均して数年の経過があり,おそらく以前にも異なった抗精神病薬による治療を受けていることが考えられるため,代謝や体重の値は誤解を招く可能性がある。

結論

元々の体重や脂質値が低く抗精神病薬に反応する患者ほどAIWGの影響を受けやすく,TR+AIWGとなる生物型の存在が示唆された。これはAIWGとTRの間に共有されるメカニズムの可能性を示す証拠と言える。

また,臨床医は体重増加を引き起こす可能性のある抗精神病薬を処方する際に,「痩せた」患者の代謝機能障害にもっと注意を払うべきであると言える。

*日本国内では未発売

263号(No.5)2023年11月27日公開

(下村 雄太郎)

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