初回エピソード精神病における早期の自殺傾向と10年間の追跡調査との関連:TIPSレジストリ連動研究

LANCET PSYCHIATRY, 10, 528-536, 2023 Association Between Early Suicidal Trajectories in First-Episode Psychosis and 10-Year Follow-Up: TIPS Registry-Linked Study. Gohar, S. M., Hegelstad, W. T. V., Auestad, B., et al.

背景

自殺は公衆衛生上の大きな問題であり,統合失調症やその他の精神病性障害者の早期の死因の一つと考えられている。初回エピソード精神病(FEP)は,他の病期に比べて自殺のリスクがかなり高くなる重要な時期である。FEPの研究では,自殺念慮や自殺行動の増加を強く示唆する臨床的危険因子として,抑うつ症状,重度の陽性精神病症状,未治療精神病期間(DUP)の長さ,併存する薬物使用,自傷歴,自殺未遂歴などが同定されている。

時間の経過に伴う自殺傾向が複雑であることから,自殺念慮と自殺行動の経時的な変化,及びこれらに関連する危険因子を共に検討する必要性が強調される。著者らの知る限り,FEPにおけるそのような軌跡を調査した研究はほとんどない。

そこで本研究では,FEP患者における自殺念慮と自殺行動の軌跡を10年間にわたる前方視的縦断研究で調査し,第一に,治療開始後の重要な2年間における念慮と行動の明確な軌跡と,それらにかかわる基準時点の社会人口統計学的及び臨床的予測因子を同定し,第二に,これらの2年間の軌跡と10年間の追跡調査における自殺傾向,すなわち,自殺念慮と自殺行動の有無,または10年間の追跡調査前の自殺による死亡との関係を明らかにする。FEPにおける自殺傾向のパターンは,罹病後2年間は識別可能で典型的ないくつかの軌跡パターンをたどり,それぞれの軌跡パターンには臨床的予測因子があり,それらがその後の自殺傾向の転帰と有意な関連があるという仮説を立てた。

方法

本縦断的追跡研究は,精神病の初期治療と介入(Early Treatment and Intervention in Psychosis:TIPS)研究の一部として実施された。組み入れ基準は,年齢15~65歳,知能指数70超,活動性の精神病症状を伴うFEPに罹患していることであった。本研究のデータベースはノルウェー及びデンマークの死因登録とリンクさせ,自殺で死亡した参加者も解析に含めた。

DUPを含む社会人口統計学的データと臨床データは,治療開始後数週間に収集した。自殺念慮と自殺行動(自殺の計画,自殺企図,自殺による死亡を含む)は,基準時点と追跡時の臨床面接で評価した。

結果

1997年1月1日~2000年12月31日に合計301名の参加者を募集した。基準時点で自殺傾向のデータが完全に揃っていた299名のうち,271名が1年後の追跡調査,250名が2年後の追跡調査,201名が5年後の追跡調査,186名が10年後の追跡調査に参加した。

4クラス成長混合モデリングモデルによって四つの軌跡が推定された。すなわち,①自殺性なしの持続(2年間の追跡調査期間を通して基準時点から自殺念慮と自殺行動がない),②持続した自殺念慮(2年間を通して自殺念慮のパターンが持続),③自殺念慮と自殺行動の改善(基準時点で自殺念慮もしくは行動を持つが2年間で改善する),④自殺念慮と自殺行動の悪化(基準時点の自殺念慮及び自殺行動が2年間で悪化する)である。

抑うつ症状の重症度(p=0.014),生活機能(p=0.027),物質使用(p=0.020)に関して,四つの軌跡の間に統計学的に有意な差が見られた。10年間の追跡調査において,②の軌跡に分類された参加者は,①と比較して自殺念慮や自殺行動を報告するリスクが有意に高かった[オッズ比(OR)=3.12]。更に,④に分類された参加者は,①と比較して,後に自殺で死亡するリスクが高かった(OR=7.58)。

結論

FEPにおける異なる自殺の軌跡は,基準時点の特異的な予測因子及び経時的な自殺傾向の異なるパターンと関連していた。本知見から,自殺念慮が持続している,あるいは自殺念慮と自殺行動のパターンが悪化している個人に的を絞った介入が必要であることが明らかになった。 

263号(No.5)2023年11月27日公開

(和田 真孝)

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