非精神病性の治療抵抗性大うつ病におけるケタミンと電気痙攣療法との比較

N ENGL J MED, 388, 2315-2325, 2023 Ketamine versus ECT for Nonpsychotic Treatment-Resistant Major Depression. Anand, A., Mathew, S. J., Sanacora, G., et al.

背景

ケタミンは,うつ病及び治療抵抗性大うつ病の患者において急速な抗うつ効果を示すことで,この20年間注目されている。しかし,ケタミンが,従来より治療抵抗性大うつ病の治療に用いられてきた電気痙攣療法(ECT)に比べて,同程度に有効かどうかについては明確でない。そこで,治療抵抗性大うつ病におけるケタミンとECTの実用的比較効果試験(ELEKT-D試験)を行い,非精神病性の治療抵抗性大うつ病の治療において,ケタミンがECTに対して非劣性であるかどうかを検証した。

方法

本試験は,前方視的非盲検無作為化非劣性試験であり,米国の5施設で実施された。2017~2022年の期間に試験実施施設のECT部門に治療目的で紹介された外来患者または入院患者のうち,DSM-5で精神病性の特徴を伴わないうつ病の基準を満たし,これまでに少なくとも二つの十分な抗うつ薬治療で治療効果が得られず,モンゴメリ・アスベルグうつ病評価尺度(Montgomery–Åsberg Depression Rating Scale:MADRS)総点が20以上の患者を組み入れた。

参加者はケタミン群とECT群に1:1の割合で無作為に割り付けられ,ケタミン群は0.5mg/kgのケタミンを週2回で3週間,ECT群は右片側性ECTから開始し効果不十分時は両側性ECTへの変更も可能として週3回で3週間の治療を受けた。

効果は簡易抑うつ症状尺度(Quick Inventory of Depressive Symptomatology–Self-Report:QIDS-SR16)で評価し,その評点が基準時点から50%以上減少した場合を反応と定義した。3週間で反応が見られた患者は,臨床提供者の処方に従ってケタミンまたはECTを含む治療を6ヶ月間受けた。3週間後に効果が見られなかった患者は試験参加を終了した。主要転帰は3週時点のQIDS-SR16評点変化による反応率で,副次転帰は,QIDS-SR16で定義される寛解率(5点以下),包括的記憶自己評価(Global Self-Evaluation of Memory:GSE-My)やスクワイア記憶障害質問票(Squire Memory Complaint Questionnaire:SMCQ)などで評価した記憶機能,16項目生活の質(QOL)尺度によるQOLなどとした。6ヶ月の追跡期間において,QIDS-SR16評点で11点以上を再燃と定義した。

結果

195名がケタミン群に,170名がECT群に割り付けられた後,介入を受けた。QIDS-SR16による反応率は,ケタミン群55.4%,ECT群41.2%で[差14.2%ポイント,95%信頼区間(CI):3.9-24.2],ケタミンのECTに対する非劣性が示された(p<0.001)。

QIDS-SR16による寛解率はケタミン群32.3%,ECT群20.0%であった。GSE-Myはケタミン群よりECT群で低く(平均±標準誤差:4.2±0.1 vs 3.2±0.1,差:1.1点,95%CI:0.9-1.2),SMCQも同様であった(平均±標準誤差:0.2±1.4 vs -8.8±1.5,差:9.0点,95%CI:5.1-13.0)。16項目QOL尺度評点は両群とも増加し,その変化はケタミン群で12.3点,ECT群で12.9点であった(差:-0.6点,95%CI:-3.4-2.1)。

3週間の治療期間中に,ケタミン群では195名中49名(25.1%),ECT群では170名中55名(32.4%)に少なくとも一つの中等度または重度の有害事象が見られた。

6ヶ月の追跡期間中に抑うつ症状評点は上昇し,1ヶ月目の再燃率はケタミン群19.0%,ECT群35.4%,3ヶ月目はそれぞれ25.0%,50.9%,6ヶ月目はそれぞれ34.5%,56.3%であった。

考察

精神病症状を伴わない治療抵抗性うつ病において,ケタミンのECTに対する非劣性が示された。

本研究の限界は,ECTを右片側性から開始したこと,ECTのセッション数が最大9回であったこと,非盲検試験であったことなどである。

263号(No.5)2023年11月27日公開

(櫻井 準)

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