イングランドにおける思春期のアルコール依存及び摂取と若年成人期のうつ病との関連:前方視的コホート研究

LANCET PSYCHIATRY, 10, 490-498, 2023 The Association of Alcohol Dependence and Consumption During Adolescence With Depression in Young Adulthood, in England: A Prospective Cohort Study. Hammerton, G., Lewis, G., Heron, J., et al.

背景

アルコールの頻繁な摂取や大量摂取がうつ病のリスクを高めるとされているが,アルコール依存症という特定のパターンがうつ病にどのように影響を及ぼすのかについては,まだ十分に解明されていない。

アルコール使用とうつ病についての先行研究のほとんどが成人を対象としている。思春期を対象とした先行研究は,アルコールの摂取頻度や量が不均一であった。更に,これらの研究が全てニュージーランド及び米国で行われていること,被験者のほとんどが1970~80年代生まれであることなど,考慮すべき制約も多い。

著者らは,平均アルコール使用量が急速に増加する発達期である16歳から23歳までのアルコール依存の変化を調べることを目的とした。また,より高いアルコール依存度(18歳時),あるいは短期間におけるより急速な増加(変化率)が,24歳時のうつ病と関連しているかどうかを調査し,アルコール摂取量ではなく依存度がその後のうつ病のリスクを上昇させるという仮説を検証するためにアルコール摂取量を調査した。本研究の目的は,アルコール依存症が若者のうつ病リスクにどのように影響を及ぼすのかを調査し,この問題の理解を深めることである。

方法

英国のAvon親と子どもの縦断研究(Avon Longitudinal Study of Parents and Children:ALSPAC)という長期的なコホート研究のデータを使用して,出生から24歳までの若者を追跡し,その間のアルコール摂取と24歳時点でのうつ病の関連を調査した。アルコール摂取は,16歳,18歳,19歳,21歳,23歳時に評価し,それぞれの年齢でのアルコール摂取の頻度と量,及びアルコール依存症の兆候について質問した。これらによって,アルコール摂取とアルコール依存症のパターンを評価した。うつ病については,改訂版臨床面談スケジュール(Clinical Interview Schedule-Revised:CIS-R)を用い,24歳時での自己報告に基づき評価した。これらにより,アルコール摂取とうつ病の関連を評価した。

結果

本研究には,1991年4月1日~1992年12月31日の間に生まれた3,902名の青年が参加した。

18歳時点でのアルコール依存症が24歳時点でのうつ病と正の関連があることが示された[確率係数(95%信頼区間:CI)は,交絡因子補正前で0.21(0.11-0.32),p<0.001(図);補正後で0.13(0.02-0.25),p=0.019]。

一方で,アルコール摂取量[補正後の確率係数は-0.01(95%CI:-0.06-0.03),p=0.60]や1年ごとの摂取量の変化率[補正後の確率係数は0.01(95%CI:-0.40-0.42),p=0.96]と24歳時のうつ病の間には関連は認められなかった。また,思春期を通じてのアルコール依存症の変化率と24歳時点でのうつ病との間にも関連は見られなかった[補正後の確率係数は0.10(95%CI:-0.82-1.01),p=0.84]。

考察

本研究の結果は,アルコール依存症が若者のうつ病リスクに影響を及ぼす可能性があることを示している。アルコール依存症がうつ病のリスクを高める可能性がある理由として,アルコール依存症が引き起こす様々な問題(たとえば,反社会的行動,家庭内の問題,学業や職業生活への影響など)が考えられる。また,アルコールの頻繁な摂取や大量摂取がうつ病のリスクを直接高めるわけではないことも重要な発見である。

これらの結果は,若者に対する公衆衛生介入の中でアルコール依存症の予防や早期治療が重要であることを示唆している。更に,アルコール依存症の早期発見と治療が,うつ病の予防に効果的である可能性が示された。これらの知見は,公衆衛生の専門家や政策立案者にとって重要な示唆となる。

図.18歳時のアルコール依存度の範囲(潜在的切片)におけるうつ病の予測確率(未補正モデルより)

263号(No.5)2023年11月27日公開

(上野 文彦)

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