身体活動及び生涯のうつ病とあらゆる死因の死亡率及び特定死因死亡率との関連:前方視的コホート研究によるエビデンス

PSYCHIATRY RES, 324, 115206, 2023 The Associations of Physical Activity and Lifetime Depression With All-Cause and Cause-Specific Mortality: Evidence from a Prospective Cohort Study. Liu, B.-P., Jia, C.-X.

元文献はこちらをご覧ください(外部サイトへ移動します)

背景

先行研究では,身体不活動はあらゆる死因の死亡リスク上昇と関連し,うつ病もあらゆる死因の死亡,心血管疾患(CVD)死亡及びがん死亡のリスク上昇と関連があると報告されている。

本研究の目的は,身体活動(PA)及び生涯のうつ病のあらゆる死因の死亡率及び特定死因死亡率との関連を検討することである。本研究の仮説は後述の通りである。すなわち,①生涯のうつ病と低レベルのPAは,それぞれ独立してあらゆる死因の死亡と特定死因死亡のリスク上昇と関連している,②あらゆる死因の死亡,CVD死亡,がん死亡の最大リスクは,低レベルのPAと生涯のうつ病と関連している,③死亡率に対してPAと生涯のうつ病との間に相互作用がある,④うつ病集団において,PAの強度を表す指標であるmetabolic equivalent task(METs)に基づくPAとあらゆる死因の死亡及び特定死因死亡の間に用量反応関係がある。

方法

英国の前方視的コホートである英国バイオバンクのデータを使用し,2006~2010年に22施設から募集した37~73歳の316,568名を対象とした。

本研究におけるPAは,短形式の国際身体活動質問票(short-form International Physical Activity Questionnaire:IPAQ-short)を用いて算出し,METsで評価した総身体活動量(TPA),中等度~活発な身体活動量(MVPA),活発な身体活動量(VPA)をデータ解析に用いた。生涯のうつ病の決定には複数の情報源を用いた。死亡日及び死亡理由は,イングランド及びウェールズからの参加者については国立保健サービス(NHS)情報センターの死亡登録を用い,スコットランドからの参加者についてはスコットランドNHSセントラルレジスターの死亡登録を用いた。

年齢,性別,民族,社会経済的状態,喫煙,飲酒,精神科受診などを共変量とし,TPA,MVPA,VPA,生涯のうつ病のあらゆる死因の死亡率及び特定死因死亡率に対する独立効果及び共同効果を調べるために,Cox比例ハザードモデルを用いて解析を行った。

結果

対象となったのは316,568名で,平均追跡期間は12.49年,あらゆる死因の死亡は17,210名(CVD死亡:2,733名,がん死亡:8,832名),女性が169,299名,平均年齢は55.6歳,白人が94.7%,生涯のうつ病の割合は14.5%であった。

あらゆる死因の死亡率,CVD死亡率,がん死亡率は,それぞれ1,000人‐年当たり4.35[95%信頼区間(CI):4.29-4.42],0.69(95%CI:0.67-0.72),2.23(95%CI:2.19-2.28)であった。TPA,MVPA,VPAの低レベルは全て,あらゆる死因の死亡及びがん死亡のリスク上昇と独立して関連していた。生涯のうつ病は,あらゆる死因の死亡[ハザード比(HR)=1.46,95%CI:1.40-1.52),CVD死亡(HR=1.48,95%CI:1.33-1.64),がん死亡(HR=1.13,95%CI:1.06-1.21)のリスク上昇と有意に関連していた。

TPA,MVPA,VPA,うつ病と,あらゆる死因の死亡率,CVD死亡率,がん死亡率との関連を図に示す。共変量を補正後,あらゆる死因の死亡,CVD死亡,がん死亡のリスクが最も高かった組み合わせは,PAなしと生涯のうつ病,VPAなしと生涯のうつ病,もしくは33~819METのTPAと生涯のうつ病の組み合わせであった。

TPA,MVPA,VPAとあらゆる死因の死亡率との有意な非線形用量反応相関が,生涯のうつ病の有無にかかわらず認められた。

結論

本研究では,TPA,MVPA,VPAのいずれにおいても,低レベルのPAと生涯うつ病の両方が,全死亡リスクの上昇に関連することが示された。これは,定期的なPAを継続することで,中年成人のうつ病に関連するあらゆる死因の死亡リスクを低下させる可能性があることを示唆する。

図.身体活動及び生涯のうつ病との死亡率の関連(316,568名)

263号(No.5)2023年11月27日公開

(吉田 和生)

このウィンドウを閉じる際には、ブラウザの「閉じる」ボタンを押してください。