不安症は男性の骨密度低下と関連する:ジーロング骨粗鬆症研究の結果

ACTA PSYCHIATR SCAND, 148, 47-59, 2023 Anxiety Disorders Are Associated With Reduced Bone Mineral Density in Men: Findings from the Geelong Osteoporosis Study. Roebuck, G., Mazzolini, M., Mohebbi, M., et al.

背景

骨粗鬆症は,骨量の減少,骨組織の微細構造の劣化,易骨折を特徴とする骨の疾患である。世界人口の高齢化に伴い,骨粗鬆症が患者,介護者,医療制度に与える負担は著しく増大する。

特定の精神障害は,骨の健康に悪影響を及ぼす可能性がある。うつ病患者1,842名と対照群17,401名を含む21の研究の結果をプールした2016年のメタ解析では,うつ病は腰椎・大腿骨・股関節全体の骨密度低下と関連していた。

また,不安症は,世界的に最も有病率の高い精神障害であり,うつ病性障害との併存が多いにもかかわらず,骨密度との関係を検討した研究はわずかである。

本研究では,潜在的な交絡因子を制御した上で,女性及び男性において不安症と骨密度の関係を前方視的に調査した。

方法

ジーロング骨粗鬆症研究(Geelong Osteoporosis Study:GOS)のデータを用いた。GOSは人口ベースのコホート研究で,豪州における骨粗鬆症の疫学を調査する目的で1993年に開始された。

GOSの参加者には,基準時点及びその後一定期間ごとに評価が行われた。本研究では,女性については基準時点,10年後,15年後の評価,男性については基準時点,5年後,15年後の評価のデータを用いた。各評価において,腰椎(L2~L4)と大腿骨頸部の骨密度を二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)で測定した。また,参加者の身体活動レベル,喫煙状況,食事,アルコール摂取量,病歴,現在使用している薬,カルシウム摂取量,社会経済的状況を調査した。

精神疾患の診断・統計マニュアル第4版(DSM-IV-TR)のための構造化臨床面接非患者版(SCID-I/NP)を用いて不安症の有無を診断し,各項目について不安症群と健常群との基準時点の差異を調べ,共変量とした。不安症群と含まれる各変数との間の交互作用効果が有意かどうかを検定し,有意であればモデルに含めた。部分(partial) η2の解釈には以下のカットオフ値を用いた。すなわち,0.01はエフェクトサイズ小,0.06はエフェクトサイズ中,0.14以上はエフェクトサイズ大とした。

結果

女性では,不安症群231名,健常群659名,男性では,不安症群93名,健常群692名が組み入れられ,男女共に,パニック症が最も多かった。不安症群の女性は,健常群と比べ,基準時点により若く,喫煙者が多く,抗うつ薬使用が多かった(いずれもp<0.05)。また,腰椎と大腿骨頸部の骨密度も高かった。不安症群の男性は,健常群に比べ,基準時点で,若く,身長が高く,喫煙者が多く,抗うつ薬使用が多く,腰椎の骨密度が低かった(いずれもp<0.05)。

不安症との関連は,女性では腰椎(部分 η2=0.0003,p=0.168),大腿骨頸部(部分η2=0.002,p=0.720)のいずれの骨密度も,不安症と有意な関連はなかった(表A)。男性では,健常群と比較して,不安症群は腰椎(部分η2=0.006,p=0.018)と大腿骨頸部(部分η2=0.006,p=0.003)のいずれも骨密度が低かった(表B)。

しかし,男性においては,気分障害の参加者を解析から除外すると有意ではなくなるため,併存するうつ病によって媒介された可能性がある。

結論

不安症の病歴は,男性の腰椎及び大腿骨頸部の骨密度低下と関連していた。 

表A.女性における腰椎及び大腿骨頸部の骨密度の一般化推定方程式(GEE)回帰モデル
表B.男性における腰椎及び大腿骨頸部の骨密度の一般化推定方程式(GEE)回帰モデル

263号(No.5)2023年11月27日公開

(内沼 虹衣菜)

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