治療中及び治療後の小児OCDにおける長期機能障害:多軌跡解析

PSYCHIATRY RES, 324, 115223, 2023 Long-Term Functional Impairment in Pediatric OCD After and During Treatment: An Analysis of Distinct Trajectories. Smárason, O., Højgaard, D. R. M. A., Jensen, S., et al.

背景

強迫症(OCD)は児童思春期の0.5~3%に発症し,慢性化する傾向にある。強迫症状そのものは寛解することも多いが,そのような場合でも機能障害が成人期まで持続する。しかし,介入後長期にわたるOCD関連機能障害については,これまで精査されていない。先行研究からは,強迫症状の重症度と機能障害との相関は高くないことが示唆されている。

認知行動療法や選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)投与により,強迫症状が改善するのと軌を一にして機能障害も改善することが多いが,児童思春期例の30%以上が治療に反応しないという報告もあり,その原因は多様なものである可能性が示唆されている。

長期的なOCD関連機能障害や,OCDの重症度や治療反応と機能障害との相互作用に関する軌跡に対して,年齢や内省,家族の巻き込みといった因子が及ぼす影響は未解明である。治療反応の多様性を検証するために,長期的な軌跡の異なる児童思春期例のサブグループを同定し,サブグループごとの特性を予測する因子を見出すことが有益と考えられるが,OCD関連機能障害に関して,長期にわたって潜在クラスの軌跡を解析した研究はまだない。本研究では,児童思春期のOCD関連機能障害について,治療中及びその後3年以上にわたる潜在クラス軌跡を同定すること,これらのクラスがどのような治療前特性に拠るかを記述すること等を目的とする。

方法

北欧の長期OCD治療研究であるNordLOTSに組み入れられた266名の児童思春期例が解析対象となった。OCDよりも治療優先度の高い併存障害や自閉スペクトラム症(ASD)がある場合や,IQが70未満である場合などは除外した。組み入れ時の年齢は7~17歳であり,性分布は均等であった。

種々の環境下におけるあらゆる機能の評価には小児強迫インパクト尺度(Child Obsessive-Compulsive Impact Scale-Revised:COIS-R)を,OCD症状やその重症度評価には小児用エール・ブラウン強迫尺度(Children’s Yale-Brown Obsessive-Compulsive Scale:CY-BOCS)を用いた。この他に,不安や抑うつ症状,家族の巻き込みについて評価した。COIS-RとCY-BOCSは,組み入れ時からその3年後までの間に7回実施した。

COIS-Rデータをもとに潜在クラス成長分析(LCGA)を行った。潜在クラスについて,治療前の人口統計,OCD特性,併存変数の差異に基づいて評価した。

結果

COIS-RのLCGAでは,軽度障害‐継続的改善群(クラス1:70.7%),高度障害‐早い改善群(クラス2:24.4%),中等度障害‐改善なし群(クラス3:4.9%)の3クラスが選択された。

クラス1ではクラス2との間にOCD重症度や不安/抑うつ,年齢などに差異が認められ,クラス3よりも注意欠如・多動症(ADHD)の併存が少なかった。クラス2はクラス3よりもOCD重症度が高く,ADHDの併存が少なかった。クラス3では反抗挑戦性障害の有病率が低かった。

クラス1の64%でOCD重症度の急速な軽減が認められたが,CY-BOCSの改善度に比してCOIS-Rの改善度は低かった。クラス2の43.1%にOCD重症度の緩徐かつ持続的な改善が認められた。クラス3の53.8%は,OCD重症度の改善も限定的であった。

結論

OCD関連機能障害は3群に分類できること,OCD症状の改善と比して機能障害の改善は緩徐であること,機能障害が改善しない例にはADHDの併存が多いことが示された。機能障害に焦点を当てた今後の研究が望まれる。

263号(No.5)2023年11月27日公開

(滝上 紘之)

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