生物学的老化の加速にはどのようなストレスが関係しているのか? 自覚ストレス,ストレスフルなライフイベント,小児期の逆境体験,心的外傷後ストレス障害の比較

PSYCHOSOM MED, 85, 389-396, 2023 Which Types of Stress Are Associated With Accelerated Biological Aging? Comparing Perceived Stress, Stressful Life Events, Childhood Adversity, and Posttraumatic Stress Disorder. Bourassa, K. J., Caspi, A., Brennan, G. M., et al.

背景

ストレスレベルが高い人は,健康状態が悪化するリスクが高い。最近の実証的研究では,心理的ストレスレベルの高さと生物学的老化の加速との関連が強調されている。老化の加速は,ストレスが健康悪化をもたらす経路の一つである可能性がある。どのようなストレス尺度が老化の加速と最も強く関連しているかは,依然として未解決の問題である。本研究では,どのタイプのストレスが成人期における生物学的老化の加速と関連するかを検証した。

方法

ダニーデン縦断研究の参加者を対象に,32~45歳時に評価した4種類のストレス[自覚ストレス,ストレスフルなライフイベントの数,小児期の逆境体験(ACE),心的外傷後ストレス障害(PTSD)]が生物学的老化の加速と関連しているかどうかを検証した。

生物学的老化は,すでに検証され確立された指標であるPace of Agingを用いて,26歳,32歳,38歳,45歳の時点で,19の生物学的マーカー・パネルを繰り返し評価することによって測定した。自覚ストレスは自覚ストレス尺度(Percieved Stress Scale)を用いて評価した。自覚ストレス尺度は,自分の生活についてストレスが多いと感じる度合いを評価する,妥当性が確認された10項目の尺度である。ストレスフルなライフイベントの数は,ライフヒストリー・カレンダーを用いて評価した。参加者は,調査評価(32~38歳,38~45歳)の間に発生したイベントを報告し,それらをコード化して,イベントの総数を示した。ACEは参加者が主に38歳の時に実施された構造化面接によって測定した。PTSDは,精神疾患の診断・統計マニュアル(DSM)第4版(32歳時と38歳時)及び第5版(45歳時)の最新版に従って診断した。

統計解析

まず,四つの独立したモデルで,それぞれのストレスの種類と生物学的老化との関連を検証した。次に,生物学的老化を予測する四つのストレス尺度を同時に含む多変量モデルを検証した。

結果

ダニーデン研究初期からの参加者1,037名のうち,955名(生存コホート参加者の95.8%,女性49.2%)が,少なくとも二つのストレス測定とPace of Aging得点を有するという組み入れ基準を満たした。

4種類のストレスは全て,生物学的老化の速さと関連していた。自覚ストレスが多い人[β=0.24,95%信頼区間(CI):0.18-0.30,p<0.001),ACEが多い人(β=0.14,95%CI:0.08-0.20,p<0.001),ストレスフルなライフイベントが多い人(β=0.19,95%CI:0.13-0.25,p<0.001),PTSD(β=0.15,95%CI:0.09-0.21,p<0.001)は,同年齢のコホートと比較して老化が速かった。複合モデルでは,自覚ストレス(β=0.17,95%CI:0.10-0.24,p<0.001)及びストレスフルなライフイベント数(β=0.08,95%CI:0.01-0.15,p=0.026)は,生物学的老化の速さと独立して関連していた。ACE(β=0.06,95%CI:-0.00-0.13,p=0.058)及びPTSD(β=0.06,95%CI:-0.00-0.13,p=0.082)は,老化の速さとは有意に関連していなかった。

結論

ストレス,特に自覚ストレスを評価することは,老化の加速のリスクがある人を特定するのに役立つ可能性がある。ストレスや,ストレスが健康に及ぼす後遺症を治療するための介入を行うことで,老化速度を遅らせ,加齢に伴う健康状態を改善できる可能性がある。

263号(No.5)2023年11月27日公開

(米澤 賢吾)

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