更年期におけるホルモン療法と認知症:全国規模のコホート内症例対照研究

BMJ, 381, e072770, 2023 Menopausal Hormone Therapy and Dementia: Nationwide, Nested Case-Control Study. Pourhadi, N., Mørch, L. S., Holm, E. A., et al.

背景と目的

女性の認知症罹患率は男性よりも高く,性別に関連した危険因子の存在が示唆されている。しかし,更年期におけるホルモン療法で用いられるエストロゲンやプロゲスチンが認知症のリスクに及ぼす影響は不明である。メタ解析や無作為化対照試験は存在するものの,用いられたホルモン療法が現代の標準的なものではなく,外的妥当性に問題があった。

本研究では,更年期ホルモン療法と認知症発症の関連に関する全国規模の研究を行った。エストロゲン・プロゲスチン療法の周期的レジメンと継続的レジメンを区別し,55歳以下の短期使用者における分析も行った。

方法

デンマーク全国登録を用いた全国規模のコホート内症例対照研究を実施した。2000年1月1日時点で50~60歳であり,認知症,乳がん,婦人科がん,血栓症,肝疾患,血栓性疾患,両側卵巣摘出,子宮摘出の既往歴のないデンマーク人女性から,2000年1月1日~2018年12月31日の間に認知症を発症した症例を同定した。また症例と年齢をマッチさせた認知症非発症対照群を同定した。

デンマークでは,認知症の診断と管理は病院,典型的には専門クリニックで行われており,認知症発症の時期を同定することが可能である。診断に関する情報は患者国家登録(National Registry of Patients),国内の全ての処方箋は国家処方登録(National Prescription Registry)に登録されているために,このデータベースを用いて認知症の診断及び発症を同定した。期間中,主に行われた更年期ホルモン療法は,エストロゲンとプロゲスチンの併用療法であった。国家処方登録を用いて,更年期ホルモン療法の時期・量・種類(継続的か周期的か)に関する情報を入手した。

結果

デンマークでは,認知症の診断と管理は病院,典型的には専門クリニックで行われており,認知症発症の時期を同定することが可能である。診断に関する情報は患者国家登録(National Registry of Patients),国内の全ての処方箋は国家処方登録(National Prescription Registry)に登録されているために,このデータベースを用いて認知症の診断及び発症を同定した。期間中,主に行われた更年期ホルモン療法は,エストロゲンとプロゲスチンの併用療法であった。国家処方登録を用いて,更年期ホルモン療法の時期・量・種類(継続的か周期的か)に関する情報を入手した。

診断時の年齢の中央値は70歳で,発症群は対照群に比べ,低学歴,低世帯所得が多く,一人暮らし,高血圧,糖尿病,甲状腺疾患が多かった(いずれもp<0.001,高血圧のみp=0.03)。発症群の1,782例(31.9%)と対照群の16,154例(28.9%)が,エストロゲンとプロゲスチンの併用による更年期ホルモン療法を受けていた。使用開始年齢の中央値は発症群,対照群ともに53歳で,使用期間の中央値は,発症群で3.8年,対照群で3.6年であった。

更年期ホルモン療法を受けたことがない人と比較して,受けたことがある人では,認知症発症のリスクが高かった[補正ハザード比(HR):1.24,95%信頼区間(CI):1.17-1.33]。この関連は,晩発性認知症(補正HR:1.21,95%CI:1.12-1.30)及びアルツハイマー病(補正HR:1.22,95%CI:1.07-1.39)に限定しても同様であった。更年期ホルモン療法の期間が長いほどHRは増加し,全認知症では,使用期間が1年以下で1.21(95%CI:1.09-1.35),12年超で1.74(95%CI:1.45-2.10)であった(図)。全認知症は継続的レジメンと周期的レジメンのいずれでも増加していた。

限界

本研究は観察デザインであるため,更年期ホルモン療法適応による交絡(すなわち,ホルモン療法を使用している女性は更年期症状及び認知症の両方の素因を有する)を除外することはできない。

結論

エストロゲンとプロゲスチンによる更年期ホルモン療法への曝露は,全認知症,晩発性認知症,アルツハイマー病の発症率の上昇と関連し,長い治療期間は全認知症発症のHR上昇と関連していた。更年期ホルモン療法の使用と認知症リスクの上昇との間に本研究で観察された関連が因果関係かどうかを調べるために,更なる研究が求められる。

図.エストロゲン・プロゲスチンホルモン療法の累積期間ごとに見た,全認知症・晩発性認知症・アルツハイマー病の補正ハザード比と95%信頼区間

263号(No.5)2023年11月27日公開

(内田 貴仁)

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