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PSYCHOABSTRACT 263号（No.5）2023年11月27日公開 >
回避・制限性食物摂取症を持つ青年及び若年成人患者ではグレリン濃度の低値が不安症状の強さと相関する

回避・制限性食物摂取症を持つ青年及び若年成人患者ではグレリン濃度の低値が不安症状の強さと相関する

J CLIN PSYCHIATRY, 84, 22m14482, 2023 Lower Ghrelin Levels Are Associated With Higher Anxiety Symptoms in Adolescents and Young Adults Wth Avoidant/Restrictive Food Intake Disorder. Sella, A. C., Hadaway, N., Stern, C., et al.

背景

回避・制限性食物摂取症（ARFID）は量及び/または種類を制限した食物摂取を特徴とし，神経性やせ症で見られるような身体像の歪みや体重増加への恐怖を伴わない。ARFIDでは，食物や食事への興味の欠如，食物への感覚過敏，または，食べることによって生じる有害な結果に対する懸念がある。また，他の精神疾患を合併するリスクが高く，不安が最もよく見られ，予後に大きく影響する。

グレリンは食欲を刺激するホルモンで，胃の細胞から分泌される。グレリンの受容体は視床下部に最も多く見られるが，扁桃体や縫線核といったストレス反応や不安に関連する脳領域にも見られる。げっ歯類を用いた研究では，グレリンにより不安様行動が引き起こされることが報告されている。

神経性やせ症ではグレリンの血中濃度が上昇していることが繰り返し報告されており，低栄養への適応的な反応と考えられている。ARFIDではグレリンの血中濃度に関する知見は限られているものの，著者らのグループは，ARFIDで低体重の思春期女性では，神経性やせ症で低体重の思春期女性と比較して，グレリンの血中濃度が低いことを報告している。

本研究では，若年成人のARFID患者でグレリンの血中濃度と不安の関連を明らかにすることを目的としている。

方法

DSM-5にて診断されたARFID患者80名（10～23歳，女性39名，男性41名）を対象とした。ARFIDの診断における半構造化面接であるPica, ARFID, and Rumination Disorder Interview（PARDI）を用いて，完全なARFID 69名と閾値下ARFID 11名とに分類した。

全般的な不安の評価には状態・特性不安質問票（State-Trait Anxiety Inventory：STAI）及びその小児版（STAI-C）を，不安の認知的・情動的な側面，身体的な症状，社会的な要素，特定の恐怖の評価にはベック不安質問票（Beck Anxiety Inventory：BAI）及びその若年版（BAI-Y）を，社交不安症及び社交恐怖の症状の評価にはリーボヴィッツ社交不安尺度（Liebowitz Social Anxiety Scale：LSAS）を用いた。

空腹時に採血を行い，血漿でのグレリン濃度を測定した。

結果

グレリンの血中濃度は各種不安尺度の合計評点と負の相関を示した（STAI/STAI-C：r＝－0.28，p＝0.012；BAI/BAI-Y：r＝－0.28，p＝0.010；LSAS：r＝－0.30，p＝0.027）。Benjamini-Hochberg法により多重比較補正を行っても結果は有意であった（STAI/STAI-C：p＝0.018，BAI/BAI-Y：p＝0.018，LSAS：p＝0.027）。完全なARFID 69名で，体格指数（BMI）のzスコアを補正して解析を行っても，グレリンの血中濃度は各種不安尺度の合計評点と負の相関を示した［STAI/STAI-C：β＝－0.27，p＝0.024；BAI/BAI-Y：β＝－0.26，p＝0.034；LSAS：β＝－0.34，p＝0.024）。多重補正後も結果は有意であった（STAI/STAI-C：p＝0.035，BAI/BAI-Y：p＝0.035，LSAS：p＝0.044）。

年齢と各種不安尺度の合計評点との間に正の相関が見られたため［STAI/STAI-C：r＝0.54，p＜0.001；BAI/BAI-Y：r＝0.60，p＜0.001；LSAS：r＝0.24，p＝0.085），年齢を共変量として解析を行った。LSASで評価した社交不安ではグレリンの血中濃度と有意な負の相関が見られたが（β＝－0.34，p＝0.029），STAI/STAI-Cについては傾向となり（β＝－0.20，p＝0.068），BAI/BAI-Yについては有意でなくなった（β＝－0.15，p＝0.143）。