アロスタティックロードの定義のコンセンサスに向けた複数のコホート・システム・生物学的マーカーのデータに対する個々の参加者データのメタ解析

PSYCHONEUROENDOCRINOLOGY, 153, 106117, 2023 Towards a Consensus Definition of Allostatic Load: A Multi-Cohort, Multi-System, Multi-Biomarker Individual Participant Data (IPD) Meta-Analysis. McCrory, C., McLoughlin, S., Layte, R., et al.

背景

心理社会的なストレッサーは,ストレス反応に関わる生理学的な調節システムを破壊することで疾患のリスクを上昇させると考えられている。McEwenらは,ストレッサーに対する反応が非適応的となった時の生理学的な結果を表すアロスタティックロード(allostatic load:AL)という概念を提唱した。ALは,神経内分泌,免疫,心血管,代謝の要素を含む総合的な指標である。30年以上も多くの研究がALの概念を利用してきたが,一貫した定義がなかったため,その研究の進展が遅れていた。

本研究は個々の参加者データのメタ解析を行い,各生理学的システムで健康状態を予測する有用な生物学的マーカー,生理学的システム間での重要性の序列,重要な生物学的マーカーのサブセットの同定,ALの定義に関するコンセンサスを得ることを目的とした。

方法

本研究では,13の異なるコホート研究に参加した40~111歳の67,126名のデータを解析対象とした。12の生理学的システム[視床下部‐下垂体‐副腎(HPA)軸,交感神経‐副腎髄質(SAM)軸,副交感神経系機能,酸化ストレス,免疫/炎症反応,心血管,呼吸器,脂質異常,人体計測,血糖代謝,腎臓,肝臓]にわたる40の生物学的マーカーを調べた。各研究で使用された生物学的マーカーの数と種類は異なるが,共通する三つの健康転帰(握力,歩行速度,自己評価の健康状態)を用いて,ALという概念を定義するための最適なパラメーターの構成を決定した。

結果

12の生理学的システムのうち九つには,メタ解析で三つの健康転帰と関連のある生物学的マーカーが少なくとも一つ存在した。それらは,デヒドロエピアンドロステロン硫酸エステル(DHEAS),低周波数心拍変動(LF-HRV),CRP,安静時心拍数(RHR),ピーク呼気流(PEF),HDL-C,ウエスト‐身長比(WtHR),HbA1c,シスタチンCであった。SAM,酸化ストレス,肝機能に関連した生物学的マーカーは今回のメタ解析では三つの健康転帰との関連はなかった。

ほぼ全ての研究で得られた五つの生物学的マーカー(CRP,RHR,HDL-C,WtHR,HbA1c)に基づく指数は,より詳細な生物学的マーカーセットと同じかそれ以上に,独立した転帰である死亡率を予測することが可能であった。

考察

ALの理論的な背景としてストレスを媒介する生理学的なカスケードの重要性が強調されていたが,本研究では健康転帰を予測する最も重要な生物学的マーカーを特定するという方法をとった結果,炎症に関連する五つの生物学的マーカーが特定された。

アドレナリン,ノルアドレナリン,コルチゾールという神経内分泌機能の生物学的マーカーは三つの健康転帰とは関連していなかった。しかし,この結果は,これらの神経内分泌機能の生物学的マーカーを調べていた研究が少なかったからかもしれない。収縮期血圧,拡張期血圧,総コレステロールもALで重要と考えられていたが,本研究では健康指標との関連は見出せなかった。これは高齢者での降圧薬やスタチンの服薬による影響があったのかもしれない。

本研究は中年期~老年期を対象としていたため,これらの結果を若年者へ一般化することはできないかもしれない。また,性別による生物学的マーカーの層別化を行っていないことも本研究の限界の一つである。

結論

本研究ではALに関する五つの重要な測定項目を特定したが,今後の研究で測定すべき生物学的マーカーも存在していることがわかった。

263号(No.5)2023年11月27日公開

(髙宮 彰紘)

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