血中と脳脊髄液中における炎症マーカーの相関:系統的レビューとメタ解析

MOL PSYCHIATRY, 28, 1502-1515, 2023 The Association Between Inflammatory Markers in Blood and Cerebrospinal Fluid: A Systematic Review and Meta-Analysis. Gigase, F. A. J., Smith, E., Collins, B., et al.

はじめに

神経炎症が精神障害発症に与える影響について,多くの関心が寄せられている。精神障害と神経炎症の関連については末梢血の炎症マーカーを用いた研究が多いが,末梢血中と脳脊髄液(cerebrospinal fluid:CSF)中の炎症マーカー濃度の相関があるかどうかについては一致した見解が得られていない。

本メタ解析の目的は,CSF中と末梢血中の炎症マーカー濃度の相関について評価することである。

方法

検索用語として((paired OR matched) AND ((cerebrospinal fluid OR CSF OR spinal fluid) and (plasma OR serum OR blood OR peripheral))) AND (inflam* OR cytokine OR interleukin)を用いて,2名の独立した研究者がPubMedとEMBASE library databaseで論文を検索し,評価した。①血中とCSF中の両者における,サイトカインまたはケモカイン濃度の相関を調べており,②査読付きの雑誌で発表されたオリジナル論文で,③英語で書かれた論文を組み入れた。

29報の研究で質的レビューを行い,その中で相関係数を報告していた21報の研究を用いて,血中とCSF中の炎症マーカー濃度の相関についてランダム効果メタ解析を行った。

全炎症マーカーを対象とした解析と,個別のマーカーを対象とした解析を行った。統計的バラつきはCochranのQ検定,異質性はI2で評価した。外れ値を示す研究と出版バイアスを調査するためにファンネルプロットを使用した。

結果

系統的レビューの対象となった29報の研究の質はいずれも中等度~高いと判定された。大多数の研究では血中とCSF中のサイトカイン濃度の相関は認められなかった。

メタ解析の対象となった21報の研究は,インターロイキン(IL)-6(10報),IL-8(6報),腫瘍壊死因子(TNF)α(6報),MCP-1(3報)を調査していた。自己免疫疾患を対象とした研究が4報,髄膜炎/中枢神経感染症を対象とした研究が3報,アルツハイマー病/認知症,妊婦を対象とした研究がそれぞれ2報,退役軍人,HIV,パーキンソン病,早産児を対象とした研究がそれぞれ1報ずつであった。全マーカーを対象としたメタ解析では,血中炎症マーカー濃度とCSF中炎症マーカー濃度との相関は統計学的に有意であるものの,相関係数は低く(r=0.21,p<0.01),異質性は高く(I2=90.7%),統計的バラつきも大きかった(Q(df=62)=842.01,p<0.001)。個別のマーカーでは,IL-6のみに統計学的に有意な相関が認められたが,相関係数は低かった(r=0.27,p<0.05)。異質性,統計的バラつきはいずれのマーカーでも大きかった。それ以外のマーカーでは相関は認められなかった。感度分析では50歳以上の患者が最も相関係数が高く(r=0.46),次いで自己免疫疾患の患者で高かった(r=0.35)。

結論

本メタ解析において,血中とCSF中の炎症マーカー濃度の相関は低かった。末梢血中の炎症マーカー濃度を,中枢神経における炎症の程度を評価するための代替マーカーとして使用することは適切ではない。

263号(No.5)2023年11月27日公開

(石田 琢人)

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