子宮内での注意欠如・多動症治療薬への曝露と長期的な児への影響

MOL PSYCHIATRY, 28, 1739-1746, 2023 In Utero Exposure to ADHD Medication and Long-Term Offspring Outcomes. Madsen, K. B., Robakis, T. K., Liu, X., et al.

背景

妊娠中に注意欠如・多動症(ADHD)の治療薬が使用されることが増えている。ADHDの治療薬が児に長期的な悪影響を与えるのではないかという懸念が提起されている。著者らは,子宮内でのADHD治療薬への曝露が児の長期的な神経発達及び成長への悪影響と関連しているかどうかを調査した。

方法

デンマークの全国登録簿を用いた全住民ベースのコホート研究を実施した。1998~2015年に生まれた単胎児を特定し,このうち,在胎期間の情報が欠落している,在胎期間の情報が疑わしい,染色体異常がある,父方の紐づけ情報が欠落している児を除外し,1,068,073名の単胎児を組み入れた。出生からなんらかの発達診断,死亡,国外移住,2018年12月31日のいずれかが生じるまで,児を追跡した。

妊娠中にADHD治療薬(メチルフェニデート,アンフェタミン,デキサンフェタミン,リスデキサンフェタミン,モダフィニル,アトモキセチン,クロニジン)を継続した母親の児と,妊娠前にADHD治療薬を中止した母親の児を,Cox回帰を用いて比較した。妊娠中のADHD治療薬の使用の定義は,妊娠の30日前から出産までに1回以上のADHD治療薬の処方を受けることとした。妊娠の2年前から出産までに母親が引き換えたADHD治療薬の処方箋の情報が含まれていたことから,調剤のタイミング/日付に従って児を四つの曝露群(非曝露,中止,継続,新規使用)に分類した。

主な転帰は,小児期または青年期の神経発達性精神障害,視覚または聴覚の障害,てんかん,痙攣,成長障害であった。

潜在的な交絡因子には,分娩時の母親の年齢(25歳未満,25~34歳,34歳超),初産かどうか,分娩時の母親及び父親の精神医学的既往,妊娠前2年間と分娩までの精神科の入院または外来治療,妊娠中の他の向精神薬(抗うつ薬,抗精神病薬,抗痙攣薬,抗不安薬)の処方,妊娠中の精神科に関連しない通院回数(0~1回,2~3回,4回以上),母親の最終学歴(9年生までの義務教育/義務教育以上)などが含まれた。

結果

妊娠前にADHD治療薬を使用していた母親の児1,837名のうち1,270名の母親が薬の使用を中止し,567名の母親が薬の使用を継続した。妊娠前にADHD治療薬を使用していなかった母親のうち,331名が妊娠の1ヶ月前または妊娠中にADHD治療薬を開始し,合計で898名の児がADHD治療薬に曝露された。

母親の人口統計学的特徴と精神医学的特徴を補正した後,児のいずれの神経発達及び成長障害にもリスクの上昇は見られなかった(調整ハザード比=0.97,95%信頼区間:0.81-1.17)。ADHD治療薬への曝露のタイミング,曝露期間,種類に関して層別化したサブカテゴリーでも同様の結果であった。父親のADHD薬物使用をネガティブコントロールとして使用した分析,同胞対照分析でも,いずれのサブカテゴリーにもリスクの上昇は見られなかった。

結論

身体の成長,神経発達,発作リスクなどの転帰は,覚醒剤の影響である可能性が考えられるが,本研究によって,これらの転帰には出生前のADHD治療薬への曝露による影響が認められないことが再確認された。

263号(No.5)2023年11月27日公開

(倉持 信)

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