【from Japan】
多施設大規模脳画像データより明らかになった精神疾患の脳内大規模ネットワーク間の相互作用の異常

Schizophrenia Bulletin, 49, 933-943, 2023 Aberrant Large-Scale Network Interactions Across Psychiatric Disorders Revealed by Large-Sample Multi-Site Resting-State Functional Magnetic Resonance Imaging Datasets. Takuya Ishida, Yuko Nakamura, Saori C. Tanaka, Yuki Mitsuyama, Satoshi Yokoyama, Hotaka Shinzato, Eri Itai, Go Okada, Yuko Kobayashi, Takahiko Kawashima, Jun Miyata, Yujiro Yoshihara, Hidehiko Takahashi, Susumu Morita, Shintaro Kawakami, Osamu Abe, Naohiro Okada, Akira Kunimatsu, Ayumu Yamashita, Okito Yamashita, Hiroshi Imamizu, Jun Morimoto, Yasumasa Okamoto, Toshiya Murai, Kiyoto Kasai, Mitsuo Kawato, Shinsuke Koike

石田 卓也 先生

和歌山県立医科大学神経精神科

石田 卓也先生 お写真

背景

ヒトの感情や認知機能の処理は,機能的に接続された別々の脳領域同士が協同して働くことで支えられ,脳内大規模ネットワークを形成することが知られている。脳内大規模ネットワークには視覚ネットワーク(VIN),体性運動ネットワーク(SMN),背側注意ネットワーク(DAN),顕著性ネットワーク(SAN),大脳辺縁ネットワーク(LIN),前頭頭頂制御ネットワーク(FPN),デフォルトモードネットワーク(DMN)などが存在している。これまでの研究で,様々な精神疾患におけるこれらの脳内大規模ネットワーク間の機能的結合異常についての報告がなされていたが,一貫した結論を得られていなかった。主な理由として,これまでの研究ではサンプル数が少ない単独の精神疾患と健常者群との比較がほとんどであり,機能的結合の評価も脳領域間の因果関係を考慮に入れていなかったことが挙げられる。

近年,安静時機能的磁気共鳴画像(rs-fMRI)を用いてDynamic Causal Modeling(DCM)という手法が開発され,脳領域間の因果性結合を評価することが可能になった。そこで本研究では,日本国内の3施設の四つの大規模rs-fMRIデータセットを用いて,統合失調症,うつ病,双極性障害における七つの脳内大規模ネットワーク間の因果性結合をDCMで評価し,3疾患群で共通の因果性結合異常と各疾患特異的な因果性結合異常を明らかにすることを目的とした。

方法

東京大学,京都大学,広島大学の3施設の四つの大規模データセットから統合失調症患者143名,うつ病患者163名,双極性障害患者43名,健常対照者390名のrs-fMRIを用いて,七つの脳内大規模ネットワーク間(VIN,SMN,DAN,SAN,LIN,FPN,DMN)の因果性結合をDCMを用いて評価し,群間比較を行った。更に,異常が認められた因果性結合と各疾患の臨床症状との関連も調べた。集団解析はParametric Empirical Bayesの手法を用いた。

結果

LINの自己抑制性の因果性結合が三つの疾患で共通して減少していた。また,統合失調症ではLINから複数のネットワークへの因果性結合が増大しており,うつ病ではSMNの自己抑制性の因果性結合が増大し,DANの自己抑制性の因果性結合が減少し,双極性障害ではSANの自己抑制性の因果性結合が増大していることが明らかになった。

また,統合失調症のLINの自己抑制性の因果性結合は幻聴や妄想などの陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)で評価した陽性症状と,うつ病のDANの自己抑制性の因果性結合はベック抑うつ質問票(Beck Depression Inventory:BDI)-Ⅱで評価した抑うつ症状,双極性障害のSANの自己抑制性の因果性結合はヤング躁病評価尺度(Young Mania Rating Scale:YMRS)で評価した躁症状とそれぞれ関連していた。

結論

LINにおける自己抑制性の因果性結合の減少が疾患横断的に共通する重要なネットワーク異常であり,また各疾患特異的なネットワークの因果性結合異常が各疾患の症状に関連していることがわかった。脳内大規模ネットワーク間の相互作用異常の特徴は,精神疾患の病態機序理解に重要な役割を果たすことが示唆される。

263号(No.5)2023年11月27日公開

(石田 卓也)

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