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【テーマ:遷延性悲嘆①】
遷延性悲嘆症の割合:死亡者と遺族の関係とその死因の検討
【テーマ:遷延性悲嘆①】
遷延性悲嘆症の割合:死亡者と遺族の関係とその死因の検討
J AFFECT DISORD, 339, 832-837, 2023 Rates of Prolonged Grief Disorder: Considering Relationship to the Person Who Died and Cause of Death. Thieleman, K., Cacciatore, J., Frances, A.
背景と目的
DSM-5-TRに収録された遷延性悲嘆症(Prolonged Grief Disorder:PGD)は,正常な悲嘆を誤って疾患としてしまうことで,プライマリーケアの段階で不適切な治療が施される可能性が指摘されている。悲嘆の強さと経過は,喪失の在り方によって一様ではなく,特定のサブグループは,PGDの誤診リスクが高いことが指摘される(Thieleman and Cacciatore, 2014)。
2022年時点のPGD診断基準に,死亡者への強い憧憬/切望または/かつ思い出や思考に囚われ,以下に挙げる八つの症状のうち三つの症状が12ヶ月間持続していることが挙げられている。①アイデンティティの混乱,②死への不信感,③死亡者が死んだことを思い出させるものを回避する,④強い感情的苦痛,⑤死後の生活を再構成することの困難,⑥感情鈍麻,⑦人生の無意味感,⑧強い孤独感。
本研究では,先行研究を踏まえ,遺族の大規模サンプル内におけるPGDの割合を,死亡者の死因との関連と共に検討した。また,PGDの診断基準に対する遺族の見解と,有用性について評価した。
方法
Qualitrics社のオンライン調査を利用した。予備テストを行い,有意抽出と雪だるま式抽出を実施し,2022年8月3~11日の1週間,様々な遺族団体を通じて利用可能なものとした。対象者は,18歳以上で,かつ親密な関係にある者の死を経験したことがある者とした。調査項目は,人口統計学的質問,喪失体験に関わる質問,改訂版13項目遷延性悲嘆尺度(Prolonged Grief-13-Revised scale:PG-13-R)とした。
結果
1,236名が調査に参加した。女性(91.8%),白人(88.3%),55~64歳(27.4%)の層が最も多く,45.7%がキリスト教徒であった。約半数(51.5%)が子ども,20.3%が親,9.5%がパートナー,6.1%が同胞の喪失を報告した。死因は,疾患が44.5%,事故が17.8%,自殺/殺人が16.1%,物質の過剰摂取が7.1%であった。
PG-13-Rには1,137名が回答した。本尺度は,本研究の対象者で強い内的一貫性を示した(α=0.92)。平均点は26.25点[標準偏差(SD)=9.02]であった。30点をカットオフ値とすると,34.3%がPGDの診断基準を満たし,37.6%に機能障害が認められた。過去12ヶ月以内に喪失を経験したのが113名(10.2%)で,このうち51.3%がPGDの診断基準を満たしていた。死亡者との関係ごとでは,子どもを亡くした回答者のPGD率が最も高く(全体の41.6%,平均点=28.04,SD=9.28),次にパートナー/配偶者が高かった(33.7%,平均点=26.30,SD=9.08)。機能障害の割合は,子どもを亡くした親で最も高かった(44.7%)。死因別では,物質の過剰摂取で最もPGD率が高く(59.1%,平均点=29.67,SD=8.84),次に殺人/自殺が高かった(46%,平均点=29.01,SD=9.06)。機能障害は,殺人/自殺での報告率が最も高く(53.7%),次いで物質の過剰摂取が高かった(47.6%)。憧憬/切望は,71.3%が,“非常に強い(overwhelmingly)”と“強い(quite a bit)”を選択した。喪失からの経過時間がPG-13-Rの得点を予想するかどうか,2変量線形回帰分析を用いて検証したところ,両変数の間には負の相関があり(b=-6.58,t=14.48,p<0.001,95%信頼区間:7.47--5.69),経過した時間が長いほどPGDの評点は低下した。
大多数の参加者(65~95.6%)は,PG-13-Rの項目に対して自分の反応を正常と見なしていた。参加者に「もし専門家によってあなたの悲嘆が精神障害であると診断された場合,どの程度有用だと思いますか?」と尋ねたところ,54.4%が「全く有用ではない」と回答した。
考察と結論
本研究では,遺族と死亡者の関係によってPGDの割合が異なることが明らかになった。また,ほとんどの遺族が自分の悲嘆を正常なものと考えており,本研究の対象者ではPGDの診断を受けることが有用と考える遺族が少なかった。
一方で,本研究では便宜的サンプリングや自己選択サンプリングを行ったため,代表的な対象者とは言いがたい。より代表的な対象者を用いた研究が必要である。また,PGDに関する詳細な質的研究は,悲嘆体験をより包括的に理解する上で不可欠である。
264号(No.6)2024年2月9日公開
(舘又 祐治)
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