クロザピンの1日1回投与と1日複数回投与の比較:2施設横断研究,系統的レビュー及びメタ解析

EUR ARCH PSYCHIATRY CLIN NEUROSCI, 273, 1567-1578, 2023 Clozapine Once- Versus Multiple-Daily Dosing: A Two-Center Cross-Sectional Study, Systematic Review and Meta-Analysis. Kuzo, N., Haen, E., Ho, D. M., et al.

背景

近年のメタ解析では,様々な抗精神病薬で1日1回投与が複数回投与と同等の効力を維持しつつ,より優れた安全性を示すことが報告されている。これには,治療抵抗性統合失調症の治療薬として唯一承認されているクロザピンも当てはまる可能性がある。

目的

クロザピンの1日1回投与と1日複数回投与の有効性と安全性を欧州の二つのコホートで横断的に比較し,更に過去の研究で実施されたクロザピン1日1回投与群と複数回投与群の比較を系統的にレビューしてメタ解析を実施した。

方法

ドイツのレーゲンスブルク大学精神科・精神療法科で2005~2015年に収集したクロザピン治療を受けた入院・外来患者1,644名のデータセットと,スイスのローザンヌ大学病院精神科でクロザピン治療を受けた入院・外来患者174名のデータセットを用いた。薬物有害反応(ADR)についてのデータはレーゲンスブルクでのみ得られた。これらについてノンパラメトリック検定を用い,クロザピン1日1回投与と1日複数回投与の患者間で人口統計学的特徴及び臨床的パラメータを比較した。

また,2022 年2月1日までMedline及びEmbaseで系統的レビューを実施し,上記データセットと合わせて,人口統計学的特徴及び臨床的パラメータについてメタ解析を実施した。

結果

レーゲンスブルクのコホートでは,複数回投与群の方が,他の抗精神病薬との併用の頻度が32%高く(p<0.001),ベンゾジアゼピン系薬剤との併用は40%高く(p<0.008),抗うつ薬との併用は31%低く(p<0.001),下剤との併用が2.3倍高かった(p<0.006)。臨床症状の重症度及び反応率に差は認められなかった(p=0.25及びp=0.65)。総ADRのオッズはクロザピンの血漿中濃度が高いほど増加した[オッズ比(OR)=1.25,p=0.021]。

ローザンヌのコホートでは,複数回投与群の方が,抗コリン薬の処方頻度が3.2倍高く(p=0.003),ベンゾジアゼピン系薬剤及び抗うつ薬の処方頻度が高い傾向が認められた(共にp=0.034)。

計2,810名のクロザピン使用患者を対象とした8群のコホートのメタ解析では,複数回投与群の方が,臨床症状の重症度の上昇(標準化平均差=0.13,p=0.036),ADRリスクの上昇(OR=1.12,p=0.01,図),クロザピン投与量の増加(平均126.2mg/日,p<0.001),他の抗精神病薬(OR=1.52,p<0.001),ベンゾジアゼピン系薬剤(OR=1.94,p<0.001),抗コリン薬(OR=1.83,p=0.039),下剤(OR=2.16,p<0.001)との併用頻度が高いことが認められた。

考察

クロザピンの半減期が12時間と比較的短いことから,複数回投与は忍容性及び有効性を改善する可能性があるとされている。しかし,今回の研究ではクロザピンの1日1回投与と1日複数回投与の間で明らかな忍容性及び有効性の差は示されなかった。忍容性の間接的指標ではむしろ複数回投与の方が,レーゲンスブルクのコホートでは下剤との併用,ローザンヌのコホートでは抗コリン薬との併用頻度が高く,メタ解析では抗コリン薬及び下剤の処方頻度が1回投与群の約2倍であった。ただし複数回投与群は他の抗精神病薬との併用の頻度が高く,ADRもその影響を受けた可能性がある点に注意が必要である。

また,クロザピン血中濃度が高いほど総ADRオッズが高かったが,1日投与量ではそうはならなかったことから,血中濃度の方がADRリスクの予測因子として優れている可能性がある。

本研究の限界としては,横断的デザインであるため因果機序に関する仮説を立てることができないこと,忍容性と有効性について結論づけるには各群の患者特性が非常に不均一であること,発症,罹病期間,クロザピン投与期間,追跡間隔など重要なパラメータが入手できず解析に含めることができなかったことなどが挙げられる。

結論

分割投与はADRを軽減しない可能性がある。ただし忍容性悪化の原因はむしろ多剤併用にあるかもしれない。

現段階では,データから有力な結論が得られていないため,投与法の選択は入手可能なエビデンスに基づき,治療アドヒアランスや患者の好みなどの観点から潜在的な利点を考慮して,個別に決定されるべきである。

図.クロザピンの1日1回投与群と1日複数回投与群における薬物有害反応(ADR)のフォレストプロット

264号(No.6)2024年2月9日公開

(下村 雄太郎)

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