強迫症におけるプラセボ効果とその関連についての系統的レビューとメタ解析

CAN J PSYCHIATRY, 68, 479-494, 2023 Systematic Review and Meta-Analysis of the Placebo Effect and Its Correlates in Obsessive Compulsive Disorder. Mohamadi, S., Ahmadzad-Asl, M., Nejadghaderi, S. A., et al.

背景

強迫症(OCD)は,成人の生涯有病率が1.3%である主要な精神疾患である。うつ病,パニック症,統合失調症及び統合失調感情障害,注意欠如・多動症などの様々な精神障害については,それらにおけるプラセボ効果を検証するために,多くの系統的レビューやメタ解析が実施されてきたが,OCDにおけるプラセボ効果を症状領域や評価法の違いによって検証した系統的レビューは行われていない。よって,本系統的レビューとメタ解析では,OCD患者におけるプラセボ効果とその関連を検証することを目的とした。

方法

PubMed,EMBASE,Scopus,Web of Science,Ovid,Cochrane Library,Google Scholarを検索エンジンとして用い,2021年1月31日までの期間で系統的な文献検索を実施した。

OCD患者を対象とし,少なくとも一つのプラセボ群,一つ以上の介入群を有し,基準時点及びエンドポイントに少なくとも一つの標準化された転帰測定が実施された無作為化対照試験を組み入れた。

基準時点からエンドポイントまでの各評価尺度評点の変化を用いてエフェクトサイズ(ES)(Cohen’s d)を算出した。研究の解析方法[intent-to-treat(ITT)またはper-protocol(PP)],評価尺度(臨床医評価尺度または患者自記式尺度),評価尺度のカテゴリー(OCD,不安,抑うつ,全般尺度),OCDのタイプ(治療抵抗性または非治療抵抗性)等に基づいたサブグループ解析と,年齢,研究発表年,追跡期間等を含めたメタ回帰も実施した。

結果

49の試験(プラセボ群1,993名)が組み込まれ,研究の追跡期間は1~80週間(平均:約13週間),プラセボ群の平均年齢±標準偏差は31.8±10.5歳,参加者の48.2±12.0%が男性,プラセボ群の参加者の83.6±16.3%がそれぞれの試験を完了していた。

OCDに特異的な80の転帰測定値が解析に含まれ,全体的なプラセボのESは,OCD症状に関して0.32[95%信頼区間(CI):0.22-0.41]で,異質性は高かった(I2=96.1%)。個々の評価尺度の中では,Yale-Brown Obsessive Compulsive Scale(Y-BOCS)が最も多く使用されており[38の研究において,全体のESは0.31(95%CI:0.16-0.46)],また,小児Y-BOCSを用いた解析で最大のESを示した(0.57,95%CI:0.38-0.77)。

サブグループ解析の結果,プラセボ効果はITT解析(ES:0.43,95%CI:0.28-0.58)の方が,PP解析(ES:0.20,95%CI:0.11-0.29)よりも有意に大きかった(p=0.01)。臨床医評価尺度のESは0.27(95%CI:0.20-0.34)であり,患者自記式尺度のES[0.07(95%CI:-0.08-0.22)]よりも大きかった(p=0.02)。

全般尺度ESは0.27(95%CI:0.14-0.41)であり,不安尺度ESの0.14(95%CI:-0.04-0.32),抑うつ尺度ESの0.05(95%CI:-0.05-0.14)よりも大きかった。

治療抵抗性OCDを対象とした研究とそれ以外の研究では,プラセボ効果に有意な差は認められなかった。メタ回帰分析の結果,発表年が新しいこと(r=0.0114,p=0.018),プラセボ群のサンプルサイズが大きいこと(r=0.0035,p=0.003),短い追跡期間(r=-0.0115,p<0.001),若年(r=-0.0074,p=0.024)のそれぞれがプラセボ効果のESが大きいことと有意に関連していた。

Eggerの検定で,小規模研究効果の出版バイアスの可能性が示唆された(p=0.029)。

結論

OCD患者に対してプラセボは,うつ病や不安症のような他の主要な精神疾患におけるプラセボ効果よりも影響は小さいものの,主にOCDの中核的な症状を改善するという点で,ある程度の影響があることが示された。

264号(No.6)2024年2月9日公開

(吉田 和生)

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