DSM-5の心的外傷後ストレス障害の四つの症状クラスターに対する強直性不動と周トラウマ期解離の媒介作用に関する前方視的研究

J CLIN PSYCHIATRY, 84, 22m14613, 2023 A Prospective Study of the Mediating Role of Tonic Immobility and Peritraumatic Dissociation on the 4 DSM-5 Symptom Clusters of Posttraumatic Stress Disorder. Dokkedahl, S. B., Lahav, Y.

目的

強直性不動(tonic immobility:TI)と周トラウマ期解離(peritraumatic dissociation:PD)は共に,トラウマ後の精神病理に関連する一般的なトラウマ周期反応である。

本研究は,11日間のロケット砲撃を受けたイスラエル市民を対象に,TIとPDが,知覚された脅威と心的外傷後ストレス障害(PTSD)症状クラスターとの関係を媒介するかどうかを検証した。

方法

成人のイスラエル人の便宜的参加者を,オンライン調査から抽出した。データの収集は,①攻撃5日目から停戦まで(T1)と,②停戦から1~2ヶ月後(T2)の2時点で行った。T1に参加した合計739名はロケット砲撃を受けており,うち226名(30.6%)がT2に参加した。平均年齢は37.7歳[標準偏差(SD)=10.4],大半(81%)は女性で,半数以上(53.5%)が幼少期の虐待歴を報告した。

参加者は人口統計学的質問票に回答した。ロケット砲撃によって脅威を感じた度合いをT1で尋ね,0(まったく感じない)~100(非常に感じる)で評価した。TIは,7段階のリッカート尺度(Likert scale)によって評価した。PDは,PD体験質問票(Peritraumatic Dissociative Experiences Questionnaire)の8項目中7項目を使って,T1で評価した。PTSD症状は,DSM-5用PTSDチェックリスト(PCL-5)を使用してT2時で評価した。

TI,PD,PTSD症状間の関連を評価するために,Pearson相関検定(連続変数の場合),独立標本t検定,カイ二乗検定(ダミー変数の場合)を実施した。次に,ブートストラップ法を用いて,間接効果を推定した。

結果

T1における参加者の症状の平均は,知覚された脅威で56.33(SD=28.41,範囲:0~100),PDで9.96(SD=4.33,範囲:5~35),TIで0.99(SD=2.45,範囲:0~18)であった。T2では,18.8%(39名)が臨床的に重大なPTSD症状のカットオフ値以上であった。

TIとPDは,全てのPTSD症状クラスターと有意な正の相関を示し,エフェクトサイズは中程度であった。T1でのTI及びPDレベルが高いほど,T2でのPTSD症状レベルが高かった。知覚された脅威もまた,TI及びPD,ならびに全てのPTSD症状クラスターと正の相関を示し,エフェクトサイズは小~中程度であった。知覚された脅威と覚醒及び反応性の変化との関係はPDのみが媒介した。

考察

本研究の知見は,TIとPDを弱めることを目的とした介入は,後のPTSD症状のリスクを低下させる可能性があることを示唆している。

264号(No.6)2024年2月9日公開

(野村 信行)

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