小児及び思春期における注意欠如・多動症の世界的な有病率:メタ解析のアンブレラレビュー

J AFFECT DISORD, 339, 860-866, 2023 The Global Prevalence of Attention Deficit Hyperactivity Disorder in Children and Adolescents: An Umbrella Review of Meta-Analyses. Ayano, G., Demelash, S., Gizachew, Y., et al.

背景と目的

小児及び思春期における注意欠如・多動症(ADHD)の有病率について調査したメタ解析や系統的レビューが複数報告されている。有病率は報告によってバラつきが大きく,現状では3.4~14%と推定されている。バラつきの主な要因は地域的な問題であり,実際,ADHDの有病率は人種によって大きく異なることが報告されている。また,研究を行った年次や統計的手法などの研究間の方法論的な差異もバラつきに寄与している可能性がある。

本研究の目的は,これらのメタ解析や系統的レビューを統合したアンブレラレビューを行い,小児及び思春期におけるADHDの世界的な有病率について頑強性のあるエビデンスを提供することである。特に,性別,ADHDの亜型に分類した際の有病率の推定も行った。

方法

PubMedなどのデータベースを用いて,小児及び思春期のADHDの有病率について調べた観察研究の系統的レビュー及びメタ解析を抽出した。抽出の際,報告年による除外はしなかった。各研究の方法論的な質の評価にはAssessment of Multiple systematic reviews(AMSTAR)を使用した。

各研究で報告された有病率の異質性を考慮し,逆分散重みづけ及びランダム効果モデルを適応したメタ解析を行うことによりADHDの有病率を推定した。また,コクランのQ検定及びI2検定を適用し,研究ごとの異質性を評価した。最後に,サブグループ解析として,性別及びADHDの亜型(不注意型,多動型,混合型)に分類した。

結果

計13報の系統的レビュー及びメタ解析が抽出された。もとになった研究は588報で,サンプルサイズは計3,277,590名であった。AMSTARによる質の評価では,13報のうち3報(23.08%)が中等度,10報(76.92%)が高度であり,質が低度の研究は含まれていなかった。

有病率は,報告により3.4%から14%までとバラつきが認められたが,ランダム効果モデルを適応したメタ解析を行ったところ,プールされた有病率は8.0%[95%信頼区間(CI):6.0-10]であった。また,異質性の検定では,Q=55,944.61,I2=99.98(p<0.0001)と,異質性は有意であった。

性別で層別化したメタ解析では,男児(10%,95%CI:8-11%)は女児(5%,95%CI:4-7%)の2倍有病率が高かった。また,ADHDのサブグループ間では,不注意型(3%,95%CI:2.0-4%)が最多で,多動型(2.95%,95%CI:1.8-4%),混合型(2.44%,95%CI:1.5-3.5%)と続いた。

性別と亜型の関係でも,不注意型は男児(4.05%,95%CI:3.11-5.27%),女児(2.21%,95%CI:1.61-3.03%)の双方で,他の型より高い有病率であった。

考察

本研究は,小児及び思春期におけるADHDの世界的な有病率についてメタ統合解析を行った初の研究である。本研究を通じて,報告を行った地域により有病率の偏りがあること,性別あるいは亜型により有病率が異なること,もととなった研究のサンプル数が少ないメタ解析や系統的レビューほど有病率を低く算出する傾向があることが判明した。

本研究の強みは,経済的背景や人種などが異なる様々な地域の研究結果を量的に統合し世界的な有病率を算出したこと,ガイドラインに基づき頑強性のあるツールを用いて元論文の質を評価したこと,男女やADHDの亜型に分けて有病率を推定したこと,そして対象とした論文の大半は質が高度であったことである。

本研究から,小児や思春期におけるADHDの有病率は8%と高値であり,この年代のADHDの予防,早期発見,治療については優先的に対策を考える必要がある。

264号(No.6)2024年2月9日公開

(荻野 宏行)

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