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クロザピン,オランザピン,クエチアピンへの曝露と心膜心筋炎及び心不全との関連:全住民ベースのコホート研究
PSYCHIATRY RES, 326, 115336, 2023 The Association Between Exposure to Clozapine, Olanzapine, and Quetiapine and the Outcomes Perimyocarditis and Heart Failure: A Population-Based Cohort Study. Clapham, E., Reutfors, J., Linder, M., et al.
背景
クロザピンは治療抵抗性統合失調症に用いられ,そのうち約40%に効果が認められる。しかし,クロザピンには,投与初期に起こる副作用として心膜心筋炎が,長期の副作用として心筋症とそれに続く心不全が生じることが知られている。心膜心筋炎の機序は明らかではないが,しばしば心筋への好酸球の浸潤が認められるため,Ⅰ型アレルギーの関与が示唆されている。
ところで,クロザピンの心膜心筋炎及び心不全の副作用に関する集団コホート研究は,デンマークで行われた研究1件しか存在しない。しかし,この研究ではクロザピン曝露の心膜心筋炎の影響は明らかではなく,クロザピンに化学構造が類似しており使用頻度の高いオランザピン及びクエチアピンについては調べられていなかった。
今回著者らは,これらの点を明らかにするために,スウェーデンで全住民ベースのコホート研究を行った。
方法
データの抽出には,全スウェーデンの人口を網羅するスウェーデン全国登録(スウェーデン全国患者登録,処方薬登録,死因登録,総人口登録)を用い,2005~2018年に抗精神病薬を使用した16~75歳のコホート,更にその中から55歳までの統合失調症に限定したコホートを作成した。
抗精神病薬投与の分類には時間依存性デザインを用い,曝露時間を計算した上で薬剤の変更も考慮する方法で行った。以下の5条件,すなわち,①クロザピンを含む抗精神病薬投与,②クロザピンを含まずにオランザピンかクエチアピンあるいはその両者の投与,③これら3種を含まない抗精神病薬投与,④入院中で薬剤の内容が不明の抗精神病薬投与,⑤抗精神病薬の非投与(抗精神病薬中止後に相当,抗精神病薬を再開すれば上記の4条件のいずれかに再度分類される)に分類した。
5条件において,抗精神病薬投与2ヶ月以内の心膜心筋炎と投与後3年以内の心不全(心筋症も含む)の罹患率を調べた。
統計手法としては,心膜心筋炎のリスクを高める可能性のある身体疾患や薬物をはじめとして様々な交絡因子を入れた上で,時間依存性Cox回帰分析法を用いた。
結果
201,045名の全体のコホートと,15,238名の統合失調症のコホートとなった。
クロザピン治療を始めた5,493名中9名が心膜心筋炎を発症し,非投与条件と比べると心膜心筋炎発症の補正ハザード比[95%信頼区間(CI)]は3.4(1.6-7.3)と高かった一方で,オランザピン/クエチアピン条件では0.8(0.4-1.3)と,非投与と比べて差はなかった。統合失調症のコホートに限定しても同様に,非投与と比べて,クロザピン条件では5.4(1.2-24.1),オランザピン/クエチアピン条件では1.6(0.4-6.6)と,クロザピン投与のみで心膜心筋炎の罹患率が高かった。
心不全の罹患はクロザピン治療をしていた5,486名中87名に認められ,非投与条件と比べるとクロザピン条件では心不全発症の補正ハザード比(95%CI)は1.3(1.1-1.7)とわずかに高かったが,統合失調症のコホートに限定すると,非投与と比べてクロザピン条件では1.1(0.6-1.8)と,差はなかった。オランザピン/クエチアピン条件では,全体のコホートでも統合失調症のコホートでも非投与条件との間に差は認められなかった。
考察
本研究には,入院患者の抗精神病薬の情報が欠けていること,処方されていても実際に服薬しているかどうかはわからないこと,心不全発症に関連する可能性のある体格指数(BMI)や喫煙歴の情報がないことといった問題があるが,クロザピン投与初期の心膜心筋炎及びその後の心不全との関連を明らかにした初めての全住民ベースのコホート研究である。
264号(No.6)2024年2月9日公開
(船山 道隆)
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