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選択的セロトニン再取り込み阻害薬による心血管系毒性:米国食品医薬品局有害事象報告に提出された自発報告の解析
PSYCHIATRY RES, 326, 115300, 2023 Cardiovascular Toxicity Induced by SSRIs: Analysis of Spontaneous Reports Submitted to FAERS. Chen, Y., Fan, Q., Liu, Y., et al.
背景
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)による心血管系毒性の発生率は低いものの,発生した場合には深刻な結果を招く可能性がある。
米国食品医薬品局(FDA)有害事象報告システム(FAERS)は,米国において自由にアクセスできる公的データベースであり,医療従事者,消費者,製造業者,その他の関係者から自発的に提出された数百万件の有害事象報告が保管されており,定期的に更新されるため,現実世界のデータを反映する。本研究は,FAERSデータベースに基づき,SSRIと心血管系毒性との潜在的関連性を検討する。
方法
2004年第1四半期から2022年第2四半期までのFAERSデータベースを用いた。FAERSでは,心血管系毒性の疑いがあるSSRIとして,citalopram*,エスシタロプラム,fluoxetine*,フルボキサミン,パロキセチン,セルトラリンの6種類を報告している。SSRIと心血管系の有害事象との関連を検討するため,「不整脈」,「心不全」,「心筋症」,「塞栓及び血栓事象」,「高血圧」,「虚血性心疾患」,「肺高血圧症」,「Torsade de Pointes/QT延長」の8項目で心血管系毒性を評価した。解析には不均衡性分析を用いた。
結果
重複及び無効なエントリーが削除された後,合計21,773名のSSRI治療患者がFAERSデータベースに登録された。SSRIを服薬している女性は心血管系有害事象の発現リスクが男性に比べて有意に高く(女性55.61%,男性33.39%),特に不整脈,心筋症,塞栓及び血栓事象,高血圧,Torsade de pointes/QT延長のリスクが高かったが,心不全,虚血性心疾患,肺高血圧症のリスクは男性に比して低かった。
ほとんどのSSRIで,不整脈,心筋症,高血圧,Torsade de pointes/QT延長の報告頻度が高かった。Torsade-de-pointes/QT延長と不整脈に注目すると,全てのSSRIが有意なシグナル値を示した。肺高血圧症に注目すると,fluoxetine,パロキセチン,セルトラリンに有意なシグナルが認められた。高血圧と心筋症に注目すると,パロキセチンを除くSSRIの半数以上が有意なシグナルを示した。虚血性心疾患,塞栓及び血栓事象,心不全については有意なシグナルは認められなかった。
考察
記述統計の結果では,女性の方がより多くの心血管系の有害事象が報告される傾向があった。この性差は,女性が男性に比べて抑うつ障害や不安症の有病率が高く,SSRIの副作用を受けやすいことや,心血管系を保護する作用があるエストロゲンが壮年期以降の女性で減少することが関与している可能性がある。
SSRIとTorsade de pointes/QT延長及び不整脈との間には,比較的強い相関が存在した。SSRIは,human ether-a-go-go関連遺伝子(hERG)がコードする電流である急速カリウム遅延整流電流(Ikr)の直接的阻害を介してQT延長を誘発することが知られている。QT延長は,Torsade de pointesや心室細動などの重篤な不整脈のリスクを上昇させる。これまでcitalopram,fluoxetine,セルトラリン,フルボキサミンがIkr/hERGの阻害作用を持つことが報告されている。最近,特定の患者ではSSRI投与後の薬剤誘発性QT延長や不整脈誘発のリスクがかなり高いことが報告されている。全国規模コホート研究では,citalopramとエスシタロプラムのQT延長の可能性に関連する催不整脈作用は,臨床現場で管理可能であるとも報告されているが,特定の集団においては重大な転帰に繋がり得るため,心電図と血中濃度モニタリングが重要である。
本研究では,パロキセチンを除くSSRIが心筋症及び高血圧の発症と関連していた。多くの研究が,心筋細胞に対するSSRIの直接的な毒性作用との関係の可能性を示唆している。SSRIが高血圧を誘発する機序としては,アドレナリンとノルアドレナリンの血中濃度が上昇することや,レニン・アンジオテンシン系活性化が関与する可能性がある。
結論
本研究で6種類のSSRIがそれぞれ異なる程度で心血管系毒性と関連することが示された。この結果は実臨床において,薬物治療に関する意思決定やモニタリングをするにあたり有益な情報である。心血管系有害事象は時に見落とされていることから,リスクの高い患者に対しては,更なる心機能精査やSSRI血中濃度の検査が必要である。
*日本国内では未発売
264号(No.6)2024年2月9日公開
(三村 悠)
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